アイエンガー「選択の科学」

備忘録。

池谷賛成の本の孫引き(アイエンガーの本は手元にない)だが、ジャム売り場の実験。24種呈示の売り場、立ち寄り率60%、購入率3%に対して、6種類呈示売り場、立ち寄り率40%、購入率30%。だから、全体の購入率は24種類1.8%に対して6種類12%となる。

再現実験をやってみたいが、この差は展示ジャムの種類の数の違いだけで説明できるのだろうか。6種類以上はリッチ感の演出に役立つ、選択肢は6つまでくらいが選択し易いとの知見はあるが。ジャム以外ではどうなのか。

3人インタビューの可能性

第4回アウラ・コキリコセミナーで3人インタビューの実験を行った。その結果の速報。

対象者が3人いればFGIが成立した。終了後の対象者3人へのフォローアップインタビューでも「なんとなく仲間意識ができた」「3人だとだれがどんな人で、どんなことを発言したかを憶えていられる」などグループダイナミックスが働く様子が観察できた。

自己紹介なしで、いきなりテーマの本題部分に入ったが対象者は違和感なく入り込めたとした。このいきなりテーマ効果で時間短縮が実現できた。周辺話題からテーマに入るより、テーマから周辺情報(家族構成などデモ特性を含めて)を得た方が効率的だし、対象者に余計な緊張感を与えない。(いきなり家族構成などプライバシー情報を聞かれると構える)今回はあるクライアントさんの好意で現実にかかえている問題をテーマにしたが、結論や周辺情報は60分でもれなく収集できた。

1時間で1グループできれば、週日の夜7時から8時と8時半から9時半で2グループ実施できる。2時間のFGIでは1grが限度だし、4人のミニグルイン2gr実施だと時間配分が慌ただしくなる。

今後我々は、「3人FGIを1時間、週日夜2gr実施」を提案していきたい。

半数以上が「天然」だという集団は?

19弾は「平均以上効果」あなたは公平に振る舞っていますかの質問にほぼ100%の人が「自分は平均より公平に振る舞っている」と回答する。平均の概念が統計学的なものと違っているといってもやはりおかしい気がする。これを「平均以上効果」と言う。クルマの運転技術では69%、高校生の自分の指導力評価では70%が自分は平均以上と答え、大学教授の94%が自分は同僚より優れていると答える。自己評価はみな甘いということか。(この平均以上効果とダニング=クルーガー効果との違いがわかったようでわからない)

平均以上効果はFGIの現場では日常的に見られる。自分は平均以上に地球環境のことを気にしている、家族の健康に気を使っている、などほとんどの人が世の中で「よい」と言われて方向に「平均以上」と答える。おもしろいのは自己紹介で「天然かどうか」を言わせると半数以上が自分は天然と答える。50%以上存在したらそれは「天然」とは言えないだろうに。

「伝染効果」で組織活性化

第18弾は『伝染効果』野球の例で、絶好調の選手がいるチームでは他の選手の成績(打率)も上がる。というデータから絶好調選手からの「伝染効果」を説明しています。もちろん「鶏が先か卵が先か」の錯誤にも言及しています。つまり、チーム全体が上り調子だから絶好調選手が生まれ、他の選手の成績も上がるという論理です。このあたりは今流行りのビッグデータ分析(AIと言ったほうがそれらしくなるらしい)で解明できるのでしょう。

FGIの現場でもこの伝染効果が働きます。反応が鋭く、よく喋って、明るい対象者が1人いるとグループ全体が活性化してよいグループインタビューになります。こういう対象者を「引っ張る人」として嫌うクライアントさんもいますが、引っ張られないようコントロールしつつ、反応のよい明るい雰囲気の「伝染効果」を利用するのがモデレーションです。第6弾のバンドワゴン効果と同様にモデレーションテクニックのひとつです。

話は飛びますが、リクルートはこの「伝染効果」を意識的に組織の中に組み込んでいるのではないかと思います。営業成績のよい人、新規事業に関わる人の足を引っ張るのではなく、全体で褒め称え、それに影響されて「自分も」と考えるメンバーを増やしていると考えられます。あれだけ大きく伝統もある企業で、絶好調社員の足を引っ張らず、チーム全体のポテンシャルを上げ続けるマネンジメントの要素は「伝染効果」だけでは説明できませんが、たしかに活用はしていそうです。

変化盲と選択盲を前提にしたモデレーション

第17弾は変化盲・選択盲。ヒトの認知や意思決定行動の説明がいかにいい加減かという、昔から言われている変化盲・選択盲。ホテルのフロントで対応するホテルマンがやり取りの途中で男性から女性に入れ替わってもほとんどの人は気づかない。多数の写真の中から、好きな男性(女性)の写真を選んでもらい、しばらく間をおいて、「さっき選んだこの写真(人)のどこが好きなんですか?」と選んだ写真と違う写真を呈示すると、これじゃないと指摘する人は極めて少数で、ほとんどの人が呈示された(違う)写真のよいところを語るそうです。

我々はこの実験をFGIの中でやってみました。画像での実験では、変化盲・選択盲が確かめられました。そこで、コンセプト文でも同様の実験をしたところ、変化盲・選択盲ともに確認できませんでした。文章というコトバそのものでは変化や選択理由に気づきやすい。写真のような全体イメージで把握するものの認知は誤りやすい。との結論です。

FGIのコンセプト比較・選択場面ではモデレーターはこの認知バイアスに敏感であるべきです。P、Q、Rの比較でどれかひとつを選ばせて、選んだ理由を聞く場合、PならPを選んだ対象者の選択を絶対視せずに選択理由を聞くべきです。具体的には「何を選んだかはおいておいて、PQRそれぞれのよい点、良くない点を聞く」ようにします。また、出来上がったコンセプト文を事前に読んだときに変化盲はある程度予測できます。PQRそれぞれの差異が非常に小さかったり、微妙だったりすると対象者はうまく識別できない状況で無理やり意思決定します。コンセプト文を作った人には重大・重要な「変化」であっても対象者にとっては「どうでもよい」こともあるわけです。

ステキな錯誤

第16弾は「記憶錯誤」。『ココロの盲点』の中でもMRにとって重要なバイアスです。我々は消費者(調査対象者)の記憶を調査しているといっても過言ではありません。このひと月の間に何を、どこで買って、どうしたか、評価はどうだったか、などをいつでも調査しています。この 質問に対して対象者は自分の記憶を頼りに回答しています。ところが、この記憶が相当歪められていることは昔からわかっています。ただ、これは脳のクセですから、そういうものだとして結果を分析するより仕方ありません。第2回アウラ・コキリコセミナーでは「コグニティブインタビュー」を取り上げて、対象者の記憶の歪みをできるだけ修正する方法を犯罪捜査の手法を借りてアプローチしました。スッキリした成果はでませんでしたが、今後もこのテーマを取り上げていく予定です。

昔、テストマーケティングが盛んだった頃、岡山と広島を対照にして新製品の売上予測をやりました。その調査の中で新製品の認知経路の質問の選択肢を「新聞広告、新聞チラシ、TVCM、ラジオCM、店頭POP、店頭で、友人・知人から、その他()」にしました。(当時はネットはありません)結果を見て驚きました。TVCMを入れていない岡山でTVCMの認知経路が広島と同じ位の割合で出たのです。(テストマーケですからTVCMをコントロールした)この解釈、事後説明には相当苦労した記憶があります。この事例は今回の「記憶錯誤」よりも「確証バイアス」かもしれませんが、とにかく我々の記憶は正確さよりも「役に立つか」どうかを基準にしているようです。何の役に立つかといえば、「生き残るため」でしょう。池谷先生も最後に記憶錯誤する脳を「ステキ」としていました。

スローよりもファーストな意思決定をみがけ!

第15弾はかの有名なプロスペクト理論。『ココロの盲点』のなかでもこれだけが「理論」と標記され、効果とは違った深さを感じさせる。カーネマン・トベルスキーの『ファースト&スロー』は読んではいる。人(の脳)は冷静に落ち着いてスローな判断よりも感情に動かされたファーストな判断をする。得する時は確実性を、損する時は可能性に賭ける傾向があり、その傾向は金額の多寡によっても変化する。

消費者調査をしているとプロスペクト理論の現場によくぶつかる。清涼飲料と住宅の購入意思決定を比較すると、清涼飲料はファーストな意思決定で住宅はさすがにスローに検討し、決定までにいろいろな要素を比較検討すると考えるのが普通である。ところが、住宅の購入でもスローな検討をする前にファーストな意思決定はなされていて、それを納得させるためのスローな検討らしい。しかもコノファーストな意思決定の方がその後の満足度が高い。昔、マンションのインタビューで、ある主婦が、買い物帰りに駅前のモデルルームに何気なく寄って見て気に入って、仮予約し、その夜ダンナと相談して、翌朝手付金を持って行ったという体験を語った。もちろん、その後、いろいろ資料を取り寄せて夫婦で検討したが、最初の決断は間違っていなかったという結論だった。感情に大きく影響されるファーストな意思決定はあらゆる場面で有利なのかもしれない。理性に訴えるより、感情に訴えることが得意なマーケティングの得意分野である。バカにされるマンションポエムもなんらかの効果があるのかもしれない。