カルデサック

30年以上前、原宿のレナウンの本社があった付近にカルデサックというレストランがあった。その名の通り袋小路、どん詰まりに普通の民家のようにあったし、ネットもない時代だったので、知らない人は訪れることができない。広く知られることもない「隠れ家」であった。記憶だけだが、広くない店内の真ん中のテーブルに天井まで届きそうな生花がいけてあり、それが客同士の視線を遮って個室感がつよかった。この花が毎週のように入れ替わっていたので相当お金がかかっていたはずである。フロア係はイケメンで無口なお兄さんひとりだけで、ベタベタせず、つっけんどんでもない非常に間合いの取れた客あしらいのできる人だった。我々が行くのはグルインが終わってからだったので9時半過ぎであったが、大概われわれ以外の客はいないか、少なかった。料理はオイルサーディンのチャーハンが絶妙でいつもこれを食べていた。メニューの数もすくなかった。ワインはたくさん用意されていてイケメン兄さんも詳しかった。この店で初めてボジョレヌーボーなるものを飲んだと思う。それまではボジョレヌーボーって家で飲むものと思っていた。値段は手頃だったし、インテリア、食器も凝っていたので長く持たないと思っていたが10年近くは続いた。しかし、やはり、店は閉まっていた。

で、カルデサックでググッたら本来は都市計画用語で意図的に袋小路を作り、その先端に円形の交差点を作る市街地計画を言うらしい。袋小路なので通り抜けの車や人がなく、住民に静かな環境を提供できるのがメリットとのことである。もうひとつググった結果としてポランスキーの映画にカルデサックというのがあった。観た記憶があるようなないような、ジャクリーンビセットが出ていたらしく、そうなると観た気がしてくる。お店にもポスターがあったようななかったような。で、事によったらオーナーはポランスキーの映画のような退廃的な店を作りたかったのかもしれないと思った。採算とかマーケティングとかはとりあえずおいといて、ポランスキーの世界の店を作るというのは羨ましい。

我が人生が袋小路に紛れ込んだ状態の今、カルデサックに積極的な意味を与えたかった。