「死者は生きん」から「去る者は日々に疎し」まで

8月15日は不思議な日だ。死(破滅)に向かっていた日本がなんとか踏みとどまった日だから、その日を出発点として前を、未来を語るべきだと思うが、全体は過去を、その日を向いている。その傾向がなくなるのは平成生まれ生まれあたりからだろうか。戦争の実体験がなくても昭和生まれまでは8月15日の情緒に引っ張られていると思う。自分も戦争を体験した身内はすべて死に絶えていて、何の感慨も浮かばないのにこの日はすべての死者のことを思い出す。命日よりも確かである。マスコミがこぞって取り上げることで起こる心的現象だが、日本全体が死者を、過去を向いている印象が強い。

20ケ月前に死んだ妻も同じように8月15日に祀られる人になったようだ。1年くらいは「生者ある限り、死者は生きん」との感覚が強かったが、最近は「去る者、日々に疎しい」になっている。時間の力は偉大である。享年62歳だから早いといえばそうだが、残念、もったいない、というほどのものではない。こちらも死に近い年齢だから一層、早く疎くなっているのかもしれない。若い人から言わせると「愛が足りない」との非難があるかもしれないが、それはそうだと言うしかない。時間の経過はすべてを癒やしてくれるのだ。残された宿題も含めて疎くしてくれる。