「自分は変わらない」と思っても変わっていく。歴史に終わりはない

第22弾「歴史の終わり錯覚」ヒトは過去に起こった自分の変化よりも将来に起こる変化を少なく見積もる傾向があるそうです。10年前から今も友達である人数と、現在の友達の中で10年後も友だちでいる人数を答えさせると後者の人数が多いそうです。過去、自分に起こった変化に比べ将来は変化しないとの信念が全年齢層で観察できる。ここから「変化の時代は終わった」つまり「歴史は終わった」との錯覚名が付いたそうです。若者の方が新しいこと(変化)にチャレンジする意欲が高いと一般的に言われますが、ここでいう変化とは環境や仕事ではなく自分の嗜好、意思、性格のことです。

MRの現場では、あるブランドのロイヤルユーザーに「今後もこれを買い続けますか?」と質問するとほぼ、100%の継続率が観察できます。将来にわたって自分の好み、嗜好は変化しないとの錯覚を含んだ回答と考えるべきです。当のクライアントとしてはうれしい回答ですが、あまり、信用できません。それよりもロイヤリユーザーに至った過去を詳しく聞いた方が有効な知見が得られます。人は過去(記憶)も将来予測も多くのバイアスにまみれています。だからこそMRの出番があるのです。回答を鵜呑みにしないヒネクレ精神をもったリサーチが重要です。

クラスター錯覚で分析を楽しめ!

第21弾は「クラスター錯覚」これも結構、深刻な問題をかかえていそう。人の脳はランダム、無秩序を認めたがらず、なんらかの規則性やストーリーを作り出しやすい、という傾向(クセ)を持っている。特に同じものの集合や連続(クラスター)に注目しやすい、というものである。勝敗記録(◯と☓)を乱数発生器で作って、連続20個くらいを見せると「調子のいい時期、不調期」などのクラスターや「前半は頑張ったのに、後半は良くなったのは」とかのストーリーで解釈したがるのである。完全な無秩序やランダムネスは「不安」や「無能のレッテル」に結びつくので、クラスター錯覚やストリー性への固執は感覚的にはわかる。

ここでMRでよく使われるクラスター分析だが、ソフトはまず、ランダムネスのチェックを行ってから分析を開始して欲しいが、多分そうなっていない。人間が作ったソフトだから、無理やり(と言うか自動的に)クラスターを作っているのではないかと思う。分析結果の解釈は人が行うが、ここでストーリー性を考えないと分析は進まない。クラスター分析の弱点は、その再現性の弱さにあると思う。だから、アドホックにしか使われない。トレンド分析に使えるようなクラスターは、デモ特性など固定のものに限られるようである。ビッグデータ機械学習はこのあたりの解答を出してくれるのか。

ともあれ、MRの分析には、クラスター錯覚やストーリー作りの傾向は必須かもしれない。施策的にアプローチできないクラスターや現実離れした消費行動のストーリー(仮説)をつくらないように注意しながら分析を楽しむ。

傀儡を多く集めて神の意思

第20弾は「アドバイス効果」人は知らず知らず他人の意見・評価に影響され、影響されたことは認識できず、自分独自の意見・評価だと思ってしまう。池谷先生は「人の知性は傀儡」とまで言っている。アイデンティティの危機とも言えそう。バンドワゴン効果と違って雰囲気ではないので一層「こわい」印象である。他人の表現をそのまま真似ることは幼児でなくてもよくある。先日のクソ暑い日の朝のミーティングで「暑いですね」の挨拶に「こりゃ、死人が出ますよ」と答えたら、次に入って来た人の「暑い」の挨拶にそっくりそのまま「こりゃ、死人が出ますよ」と返事した若者がいた。発言の本人が目の前にいるのだから「と、◯◯さんがさっき言ってましたよ」とのフォローがある方が自然だと思う。こういったモノマネでコトバや知識を積み上げていくのが人だが、アドバイス効果は点数評価で観察できる。点数評価は客観的という先入観があるので、自分は他人の評価に影響されないと強く思うのかもしれない。

正確ではないが、MRではデルファイ法がこのアドバイスス効果を意識的に使っているのかもしれない。他人の評価を参照しながら評価・予測を数回修正することで、案外、正しい予測値に落ち着く、というのがデルファイ法だと思う。傀儡の知性も数多く集めれば「神の意思」に近づく。MRの知性の本質はこれではないか。感覚的には平均値、中心極限定理も、と思う。平均値を示すサンプル1個を取り出すことはできるが、そのサンプルの背後には一番大きな山を形成する数多くのサンプルの集合がある。

 

アイエンガー「選択の科学」

備忘録。

池谷賛成の本の孫引き(アイエンガーの本は手元にない)だが、ジャム売り場の実験。24種呈示の売り場、立ち寄り率60%、購入率3%に対して、6種類呈示売り場、立ち寄り率40%、購入率30%。だから、全体の購入率は24種類1.8%に対して6種類12%となる。

再現実験をやってみたいが、この差は展示ジャムの種類の数の違いだけで説明できるのだろうか。6種類以上はリッチ感の演出に役立つ、選択肢は6つまでくらいが選択し易いとの知見はあるが。ジャム以外ではどうなのか。

3人インタビューの可能性

第4回アウラ・コキリコセミナーで3人インタビューの実験を行った。その結果の速報。

対象者が3人いればFGIが成立した。終了後の対象者3人へのフォローアップインタビューでも「なんとなく仲間意識ができた」「3人だとだれがどんな人で、どんなことを発言したかを憶えていられる」などグループダイナミックスが働く様子が観察できた。

自己紹介なしで、いきなりテーマの本題部分に入ったが対象者は違和感なく入り込めたとした。このいきなりテーマ効果で時間短縮が実現できた。周辺話題からテーマに入るより、テーマから周辺情報(家族構成などデモ特性を含めて)を得た方が効率的だし、対象者に余計な緊張感を与えない。(いきなり家族構成などプライバシー情報を聞かれると構える)今回はあるクライアントさんの好意で現実にかかえている問題をテーマにしたが、結論や周辺情報は60分でもれなく収集できた。

1時間で1グループできれば、週日の夜7時から8時と8時半から9時半で2グループ実施できる。2時間のFGIでは1grが限度だし、4人のミニグルイン2gr実施だと時間配分が慌ただしくなる。

今後我々は、「3人FGIを1時間、週日夜2gr実施」を提案していきたい。

半数以上が「天然」だという集団は?

19弾は「平均以上効果」あなたは公平に振る舞っていますかの質問にほぼ100%の人が「自分は平均より公平に振る舞っている」と回答する。平均の概念が統計学的なものと違っているといってもやはりおかしい気がする。これを「平均以上効果」と言う。クルマの運転技術では69%、高校生の自分の指導力評価では70%が自分は平均以上と答え、大学教授の94%が自分は同僚より優れていると答える。自己評価はみな甘いということか。(この平均以上効果とダニング=クルーガー効果との違いがわかったようでわからない)

平均以上効果はFGIの現場では日常的に見られる。自分は平均以上に地球環境のことを気にしている、家族の健康に気を使っている、などほとんどの人が世の中で「よい」と言われて方向に「平均以上」と答える。おもしろいのは自己紹介で「天然かどうか」を言わせると半数以上が自分は天然と答える。50%以上存在したらそれは「天然」とは言えないだろうに。

「伝染効果」で組織活性化

第18弾は『伝染効果』野球の例で、絶好調の選手がいるチームでは他の選手の成績(打率)も上がる。というデータから絶好調選手からの「伝染効果」を説明しています。もちろん「鶏が先か卵が先か」の錯誤にも言及しています。つまり、チーム全体が上り調子だから絶好調選手が生まれ、他の選手の成績も上がるという論理です。このあたりは今流行りのビッグデータ分析(AIと言ったほうがそれらしくなるらしい)で解明できるのでしょう。

FGIの現場でもこの伝染効果が働きます。反応が鋭く、よく喋って、明るい対象者が1人いるとグループ全体が活性化してよいグループインタビューになります。こういう対象者を「引っ張る人」として嫌うクライアントさんもいますが、引っ張られないようコントロールしつつ、反応のよい明るい雰囲気の「伝染効果」を利用するのがモデレーションです。第6弾のバンドワゴン効果と同様にモデレーションテクニックのひとつです。

話は飛びますが、リクルートはこの「伝染効果」を意識的に組織の中に組み込んでいるのではないかと思います。営業成績のよい人、新規事業に関わる人の足を引っ張るのではなく、全体で褒め称え、それに影響されて「自分も」と考えるメンバーを増やしていると考えられます。あれだけ大きく伝統もある企業で、絶好調社員の足を引っ張らず、チーム全体のポテンシャルを上げ続けるマネンジメントの要素は「伝染効果」だけでは説明できませんが、たしかに活用はしていそうです。