「伝染効果」で組織活性化

第18弾は『伝染効果』野球の例で、絶好調の選手がいるチームでは他の選手の成績(打率)も上がる。というデータから絶好調選手からの「伝染効果」を説明しています。もちろん「鶏が先か卵が先か」の錯誤にも言及しています。つまり、チーム全体が上り調子だから絶好調選手が生まれ、他の選手の成績も上がるという論理です。このあたりは今流行りのビッグデータ分析(AIと言ったほうがそれらしくなるらしい)で解明できるのでしょう。

FGIの現場でもこの伝染効果が働きます。反応が鋭く、よく喋って、明るい対象者が1人いるとグループ全体が活性化してよいグループインタビューになります。こういう対象者を「引っ張る人」として嫌うクライアントさんもいますが、引っ張られないようコントロールしつつ、反応のよい明るい雰囲気の「伝染効果」を利用するのがモデレーションです。第6弾のバンドワゴン効果と同様にモデレーションテクニックのひとつです。

話は飛びますが、リクルートはこの「伝染効果」を意識的に組織の中に組み込んでいるのではないかと思います。営業成績のよい人、新規事業に関わる人の足を引っ張るのではなく、全体で褒め称え、それに影響されて「自分も」と考えるメンバーを増やしていると考えられます。あれだけ大きく伝統もある企業で、絶好調社員の足を引っ張らず、チーム全体のポテンシャルを上げ続けるマネンジメントの要素は「伝染効果」だけでは説明できませんが、たしかに活用はしていそうです。

変化盲と選択盲を前提にしたモデレーション

第17弾は変化盲・選択盲。ヒトの認知や意思決定行動の説明がいかにいい加減かという、昔から言われている変化盲・選択盲。ホテルのフロントで対応するホテルマンがやり取りの途中で男性から女性に入れ替わってもほとんどの人は気づかない。多数の写真の中から、好きな男性(女性)の写真を選んでもらい、しばらく間をおいて、「さっき選んだこの写真(人)のどこが好きなんですか?」と選んだ写真と違う写真を呈示すると、これじゃないと指摘する人は極めて少数で、ほとんどの人が呈示された(違う)写真のよいところを語るそうです。

我々はこの実験をFGIの中でやってみました。画像での実験では、変化盲・選択盲が確かめられました。そこで、コンセプト文でも同様の実験をしたところ、変化盲・選択盲ともに確認できませんでした。文章というコトバそのものでは変化や選択理由に気づきやすい。写真のような全体イメージで把握するものの認知は誤りやすい。との結論です。

FGIのコンセプト比較・選択場面ではモデレーターはこの認知バイアスに敏感であるべきです。P、Q、Rの比較でどれかひとつを選ばせて、選んだ理由を聞く場合、PならPを選んだ対象者の選択を絶対視せずに選択理由を聞くべきです。具体的には「何を選んだかはおいておいて、PQRそれぞれのよい点、良くない点を聞く」ようにします。また、出来上がったコンセプト文を事前に読んだときに変化盲はある程度予測できます。PQRそれぞれの差異が非常に小さかったり、微妙だったりすると対象者はうまく識別できない状況で無理やり意思決定します。コンセプト文を作った人には重大・重要な「変化」であっても対象者にとっては「どうでもよい」こともあるわけです。

ステキな錯誤

第16弾は「記憶錯誤」。『ココロの盲点』の中でもMRにとって重要なバイアスです。我々は消費者(調査対象者)の記憶を調査しているといっても過言ではありません。このひと月の間に何を、どこで買って、どうしたか、評価はどうだったか、などをいつでも調査しています。この 質問に対して対象者は自分の記憶を頼りに回答しています。ところが、この記憶が相当歪められていることは昔からわかっています。ただ、これは脳のクセですから、そういうものだとして結果を分析するより仕方ありません。第2回アウラ・コキリコセミナーでは「コグニティブインタビュー」を取り上げて、対象者の記憶の歪みをできるだけ修正する方法を犯罪捜査の手法を借りてアプローチしました。スッキリした成果はでませんでしたが、今後もこのテーマを取り上げていく予定です。

昔、テストマーケティングが盛んだった頃、岡山と広島を対照にして新製品の売上予測をやりました。その調査の中で新製品の認知経路の質問の選択肢を「新聞広告、新聞チラシ、TVCM、ラジオCM、店頭POP、店頭で、友人・知人から、その他()」にしました。(当時はネットはありません)結果を見て驚きました。TVCMを入れていない岡山でTVCMの認知経路が広島と同じ位の割合で出たのです。(テストマーケですからTVCMをコントロールした)この解釈、事後説明には相当苦労した記憶があります。この事例は今回の「記憶錯誤」よりも「確証バイアス」かもしれませんが、とにかく我々の記憶は正確さよりも「役に立つか」どうかを基準にしているようです。何の役に立つかといえば、「生き残るため」でしょう。池谷先生も最後に記憶錯誤する脳を「ステキ」としていました。

スローよりもファーストな意思決定をみがけ!

第15弾はかの有名なプロスペクト理論。『ココロの盲点』のなかでもこれだけが「理論」と標記され、効果とは違った深さを感じさせる。カーネマン・トベルスキーの『ファースト&スロー』は読んではいる。人(の脳)は冷静に落ち着いてスローな判断よりも感情に動かされたファーストな判断をする。得する時は確実性を、損する時は可能性に賭ける傾向があり、その傾向は金額の多寡によっても変化する。

消費者調査をしているとプロスペクト理論の現場によくぶつかる。清涼飲料と住宅の購入意思決定を比較すると、清涼飲料はファーストな意思決定で住宅はさすがにスローに検討し、決定までにいろいろな要素を比較検討すると考えるのが普通である。ところが、住宅の購入でもスローな検討をする前にファーストな意思決定はなされていて、それを納得させるためのスローな検討らしい。しかもコノファーストな意思決定の方がその後の満足度が高い。昔、マンションのインタビューで、ある主婦が、買い物帰りに駅前のモデルルームに何気なく寄って見て気に入って、仮予約し、その夜ダンナと相談して、翌朝手付金を持って行ったという体験を語った。もちろん、その後、いろいろ資料を取り寄せて夫婦で検討したが、最初の決断は間違っていなかったという結論だった。感情に大きく影響されるファーストな意思決定はあらゆる場面で有利なのかもしれない。理性に訴えるより、感情に訴えることが得意なマーケティングの得意分野である。バカにされるマンションポエムもなんらかの効果があるのかもしれない。

自分のものはかわいい

『ココロの盲点』シリーズ第14弾は保有効果。脳は手に入れたものに愛着を感じ、手放すことに抵抗を感じる傾向があるそうです。持っているCDを友人が欲しいと申し入れた時、多くの人は買った時の値段以上の値付けをする。持っている株の売り時が遅れる、読まない本を売らないで本棚をいっぱいにするなども保有効果とされます。また、長く付き合った恋人同士ほど別れるチャンスを失いやすいらしいです。ただ、保有効果もそうですが、こういったバイアスはココロの安定に役立っている気がします。手に入れたものに愛着がわかず、手放すかどうかをそのものの現在価値を冷静に測定して決める、と言うのは何か殺伐としている気がします。別れる別れるといいつつ、何年も持っている恋人や夫婦、あるいは辞める、辞めると騒ぎつつ、いつまでもいる会社・職場、などは保有効果なのでしょうが、何か人間味がありそうです。

MRで保有効果が問題になりそうなのは、Aブランドのユーザーで、A・Bブランドの一対比較をさせるとAの評価が高くなるという状況になりそうですが、現場ではあまり気にせずに「ユーザーなんだからそうだろうな」程度で処理していそうです。ブランドイメージも現ユーザーの方が良くなるのは保有効果を持ち出すまでもなく常識だろうと思います。この保有効果とサンクコスト効果は似ていそうです。

繰り返しと発話・発語でブランドロイヤリティ

『ココロの盲点』シリーズ13弾目。テスティング効果。池谷先生の得意分野の記憶の問題。脳はインプットよりもアウトプットを重視して記憶すべきこと、長期記憶に保存すべきことを判断している。だから、明日の試験対策としては、たくさん憶えようとインプット(教科書を繰り返し読む)よりもアウトプット(小テストを繰り返す)方が有利だそうです。

あるブランドのユーザーのFGIの時、FGIが終わる頃はほぼ全員が、そのブランドのロイヤルユーザーとして確信に満ちた顔つきになります。リクルーティング段階では単なるヘビーユーザーだった対象者もFGI中にそのブランドについて何回も発言(アウトプット)するうちに記憶内容が強化され確信的記憶となったブランド名が脳に刻まれたと解釈できそうです。ここからマーケティングの基本として「繰り返し」と「アウトプット」が重要であるとのことがいえます。繰り返しは当然として、アウトプットを促す施策として発言・発話を促すことが重要です。リビングでTVCMに10回接触してもらうより、Webキャンペーンでブランド名をキワード検索(発話・発語)してもらう方がブランドの記名(認知率)アップにつながると考えられそうです。これはテレビなどの受動的媒体よりもWeb検索などの能動的媒体が有利であることを意味します。重要なのは消費者に情報を流し込むより、絞り出してもらう方が効率的ということです。これら絞り出す場面をハブとしてコントロールできれば「自然な」インフルエンサーマーケティングが可能かもしれません。

「少数の法則」はリサーチャーの宿命

『ココロの盲点』シリーズ第12弾は 「少数の法則」。少数の法則だけでは何なのかさっぱり見当がつきません。本では、ハトにブザーが鳴ったときにレバーを押せば餌が出る訓練を充分に行い、「ブザー → レバーを押す → 餌にありつける」との学習が成立したところで、ブザーもレバーも関係ない時に突然、餌をだすと、ハトは奇妙なダンスするそうです。(実験結果もある)餌が出る因果関係は理解(体に染み込んだ)していたはずなのに何故、今、餌が出たかの因果関係はわからない。そこで、餌が出た瞬間の体の動きを繰り返すのだそうです。脳はどんなことにも法則化したがるクセがあり、数少ない成功体験から定式化された「儀式(ハトのダンス)」を生みます。これがゲンかつぎ、迷信、などが生まれる原因です。これに確証バイアス(第2弾)が加われば「信念」になります。そして、こういった慣例はなかなか消えず、それを消去抵抗が大きいと言うそうです。

少数の法則といえるかどうか自信はありませんが、トレンド調査で、特定のデータの対前年比が大きく動いた時、データの精度をチェックする前にその動きの理由を考え始めてしまうのがリサーチャーではないでしょうか。その動きに対してある仮説があてはまりそうだと一層、データの解釈(因果関係の推定)に突き進みます。同時にデータチェックをやれば問題ないのですが、時間がなかったり(納期)、解釈が面白すぎるとチェックが甘くなってとんでもない失敗につながることがあります。因果関係を考えたがる脳のクセはリサーチャーで著しいのかもしれません。

もとよりサンプルサイズの小さい定性調査では、少数の発言から膨大なストーリーを作ってしまいます。このストーリーづくりが分析者の能力と言っても過言ではありません。「行動がまずあって、あとからその理由を考えるのがヒトの行動パターン」が事実であれば、インタビューの対象者も偉大なストーリーテラーなわけで、それも元に分析するのは物語を物語で表現することになります。そこにはデータの精度という考えは入り込めません。

少数の法則の実体験としてかつて「日曜日の夜の個性的な人々」http://blog.hatena.ne.jp/auraebisu/auraebisu.hatenablog.com/edit?entry=8454420450094595545

という記事をアップしました。これは典型的な少数の法則で、我々の周りはこれが溢れているようです。