利用可能性ヒューリスティックと質問文

池谷裕二先生の『ココロの盲点』をネタに定性調査の質問の仕方、定量調査の質問文の作り方の注意点をシリーズで書いていく。今回は第1回。

 

①古くから「愛の力は金にまさる」と言われますが、そう思いますか

古くから「金の力は愛にまさる」と言われますが、そう思いますか

の2つの質問文はどちらも過半数の「そう思う」回答を得る。という事例を上げている。

これは利用可能性ヒューリスティックで脳は思い出しやすい情報に影響されるということである。「こんなに簡単に思い出せるのだからそうなのだろう」と判断してしまう。

愛の力が金にまさる事例も金の力が愛にまさる事例も簡単に思い浮かべられるので「そう思う」と回答してしまう。

ここで、リサーチの立場で言うと古くから「・・・・」と言われますが、の質問文が問題である。ダブルバーレル的質問である。古くから言われていることの認知と愛と金とどちらがまさるかの質問がダブって入っている。

本来は、古くから言われていることを知っているか、の質問と愛と金はどちらがまさると思うかの質問を別々にすべきである。

マスコミ関連ではこの利用可能性ヒューリスティックを使うことが多い。例えばあまり浸透していないコトバの認知度を取るとき、しかもその認知率が高いことが報道上有利な場合などに使われる。「・・・という報道がありますが」「・・・という人が多いということですが」などヒューリスティックを直接的に表現している場合がある。

最近、ある会社が実施した『母親に聞いた!「AIとSTEM教育に関する意識調査』というレポートでは、質問文が「Q3 2020年から小学校でプログラミング教育が必修化されるとの報道があります。あなたはそのことをご存知でしたか?」とプログラミング教育必修化の認知を聞いている。(報道を知っているか、報道内容を知っているかの2つがまぜこぜで質問されている)明らかに認知率が高い方に誘導したい調査者の気持ちが出ている。プレス発表が目的の調査ならおおめに見られるが、企業のマーケティングのための調査では禁じ手である。