ペルソナビルドはSTPPの最後P

マーケティングでセグメンテーションは前提になっている。漠然とマス市場に向けてマーケティングを行うことはできなくなっている。セグメンテーションして自分たちのターゲットを決め、ターゲットのプロファイリングを行い、ポジショニングで競合・補完関係を分析してマーケティング施策に着手し、後はPDCAを回す。といったところが王道であろう。このプロセスは新製品開発、ブランディングにもあてはまる。

ここで、ペルソナビルドとその有効活用を考える。まず、ペルソナビルでは、このSTPの頂点から伸びる線の先にペルソナを設定すべきだろう。ポジショニングで自ブランドの位置づけが確定しているのだから、そのポジションのターゲットユーザーを詳しく分析してペルソナに仕立てて行けばよい。このプロセスを経ないでいきなり「ペルソナを作ろう」とするとキャラクター開発やマスコット開発に偏っていってペルソナ開発には程遠いプロジェクトになってしまう。ペルソナ開発はSTPの完全な分析を前提としている。

STP分析だけでは足りず、何故、ペルソナを作るかというと、ポジショニング分析までで出来上がったプロファイリングはあくまでも「平均値の比較・差異」によるプロファイルであって「生きて動く」ユーザー(人)としての具体性やエッジの立ち方が足りないのである。ポジショニング分析でいつもモヤモヤ感が残るのは、軸の意味づけと軸の直交性に信頼性(普遍性)がないことが原因ではないか。クラスターに分けてもクラスター間の差異(分散)とクラスター内のそれとが、あまり大きくないと感覚的に思えてしまう。(解析的に問題ないとしても)この状態で作業に入ると、分析結果に基づく提案のエッジが立たず、個性のない一般的な提案になる危険が大きい。そこで、分析結果をないがしろにして自分の「思い込み」だけで作業しても問題ない、大差ないとの意識が生まれて来る。分析が神棚に祀られる瞬間である。その結果は、作業の方向性のブレやメンバー間のコンフリクトとしてあらわれる。この方向性のブレはメンバー間の意識のズレを修正するのにペルソナが役立つ。

ペルソナビルドにあたっては、いきなりペルソナ作りに入るのではなく、STPを経てその先にペルソナを設定する必要がある。検討の結果、ペルソナは必要なしとする場面が多いかも知れない。どういう場面でペルソナが有効か・無効かを考えて行こう。

FGI対象者人数とマジカルナンバー

FGIの最適対象者人数を考える時、マジカルナンバーは非常に参考になる。心理学や脳科学の概念と考えてよい。ヒトが短期記憶で保持できる数のことで、1956年にミラーが7±2のマジカルナンバーを提唱した。ミラーは短期記憶はチャンク(かたまり)として記憶され、そのチャンクの数が5~9の範囲になると主張した。FGI中の対象者の発言をチャンクと考えれば、モデレーターや観察者が記憶(短期記憶)できる。人数の限度は5人~9人となり、FGIの対象者人数の歴史とある程度一致する。(対象者の発言全体をチャンクと考えるのは無理であるが)また、7は神秘数ともいわれることもあって±2の部分は忘れられてマジカルナンバー7が浸透したようだ。(七草、荒野の7人、7転び八起、西洋でもラッキーセブン、他)

その後、2001年にネルソン・コーワンが4±2こそがマジカルナンバーであると提唱した。コーワンも心理学者であり、観察や実験から4±2のマジカルナンバーを導出した。4という数字は7ほど神秘性はなさそうだが、日常生活では特徴的な数値である。例えば、グループインタビューをグルインと4文字で略称するし、4文字熟語であるし、合コンの最適人数は4☓4というネットのうわさもある。うちとけた楽しい飲み会の人数も4±1らしい。(5人以上は宴会になる)

 

複数物体追跡課題という脳科学の実験がある。この結果がマジカルナンバー4になっているので以下に引用する。

「視覚性ワーキングメモリーの容量的制約」

1997年の古い実験であるが、「異なった色のついた正方形が100ミリ秒提示され、900ミリ秒の遅延期間の後、再び同数の正方形が同位置に提示される。被験者はそのうち1つの正方形の色が変化したかどうかの判断を求められる。結果は、被験者は刺激の数が4つくらいまではほぼ正確に答えられるのだが、それを越えると成績は急激に低下する。またこのパターンは色のみならず、さまざまなタイプの刺激で共通してみられる。従って、視覚性ワーキングメモリーの容量はほぼ4くらいであると考えられる」(Luck&Vogel 1997)新曜社 社会脳シリーズ第3巻『注意をコントロールする脳』

心理学視点でも脳科学視点でもFGIの最適対象者人数は4人と結論できそうである。

対象者人数によるインタビューの深さ

FGIの対象者人数の歴史を振り返ると、FGIが行われ始めたころは1グループ当たり対象者8人が多かった。さすがに多すぎたのであろう、やがて6人が主流になる。その間、グループ内で多数決の決着がつくようにとの理由で、7人の時代もあった。ただ、「業界として」これまでFGIの最適対象者人数は何人かという議論は真剣には行われてこなかった。なかば、慣習として「6人ですよね」で済まされてきている。

私は、12人から3人までのFGIを体験した。12人、10人はグループが形成されず、ひとりひとりが発表するシンポジウムみたいなもの。マーケティング的には「定量調査をやればいいのでは」ということになる。8人はなんとかグループ形成できるが、グループを作ることだけに集中させられてテーマへの突っ込みや深掘りまでモデレーターは気が回らない。

7人、6人からFGIらしくなり、グループ全体の「流れ、動き」がコントロールでき、その流れ、動きに対象者個別がどう関与してるか、影響を受けているか、コントロールできるようになる。ただ、デブリーフィングや分析の時、必ず6人の対象者のうち1人か2人の印象が極めて弱いか全く思い出せないという現象が悩みだった。DVDで振り返った時、休んでいる対象者がいることに気づいた。(最悪、居眠り寸前のことも)観察するとこの対象者の心はグループから外れて話しに全く関心を持っていない様子なのである。授業中にボーっと窓の外を眺めている生徒のよう。いわゆる「謝礼ドロボー、フリーライダー」である。これを防ごうとその対象者を指名したりしているとグループとしての凝集力は確実に下る。

対象者5人のFGIでは6人までのようなフリーライダーによる希薄化がなくなり、グループの凝集力と対象者個別の個性(態度変容)の分析がうまくコントロールできた。その5人のFGIでドタキャンが1人出て4人で実施することになった。この対象者4人がベストの結果になった。その後は、積極的に4人のFGIを勧めている。

さらに3人のFGIをトライした。これはミニグルインとしてインタビュー時間も短縮して「回す」ことが主眼になってくる。定義として3人はグループではあるが、いわゆるグループダイナミックスは発動しずらい。

対象者4人FGI終了後は、・他の対象者の話がよく聞けた(6人のときは何言ってるかわからないときがあった)・自分の意見を言いやすかった(6人だと言おうとしている時に次の話題にいってしまう)などと満足度が高かった。

 

ユーザージャーニーは短い

第6回アウラ・コキリコセミナーのテーマはカスタマーから「ユーザー」」への新しいジャーニーと協働インタビューの2つであった。

 

結果は、

想定した通りのユーザージャーニーらしいユーザージャーニーは観察できなかった。

少し強引に「調理の素」を対象にユーザージャーニーを設定してみる。

ユーザージャーニーの起点は購入=店頭

買い物かごから移す → ストックとすぐ使うに分岐 → すぐに使うはここでEND

          → ストック棚に収納する →

何があるかわかるように並べる → 商品名がわかるように → 賞味期限の順

このストックを見る ← メニューに悩んだ時

悩んでいるメニューが 主菜 → 調理の素は主菜にはなりづらい

           副菜 → 豆腐、ナスなどの素材をチェック → 冷蔵庫開

                けるor記憶

              → 素材がなければ却下が多い ← わざわざ素材を

                買いに行かない

ストック棚から取り出して使う → END

ストック棚の在庫切れ認知 → 次回の購入契機

使ったものの在庫補給意識は弱く、調理の素全体で、「安いときに買う」 

  → ブランド意識は弱い。

 

以上から、購入後のユーザージャーニーのタッチポイントとして「ストック棚」「ストック場所」がある。

このタッチポイントの特徴は、

・商品名(メニュー種類)がひと目でわかる本棚(背表紙)のように並べられる

・賞味期限がわかるように並べられる

・ひと目で見られる → 蓋、扉はいらない

の3点である。

この時のユーザーの心理状態は少し「追い詰められて」いるので即断できるようにアシストすべき。

 

ここから考えられることは、

 ・メニュー別に箱の大きさは替えない

 ・箱入りにして本棚のようにストックできるようにする

であるが、Cookdoが、調査で「外箱は無駄、無くしてその分安くして」という意見が多くても外箱を止めない理由が納得できる。

また、ストック棚プレゼントやストックアプリプレゼントも考えられる。

 

協働インタビュー

対象者2人に即席のペアになってもらい、お互いの会話(モデレーターと対象者の役割を適宜交替してもらう)からリサーチテーマに迫る。という方法をトライした。

結果はうまく行かなかったので今後の検討テーマとしたい。

課題を列挙する

・インタビュー会場でいきなり言われても理解できない → リクルーティング段階でどこまでお願いするか

・内容の説明が難しい。特に対象者とモデレーターの入れ替わりとモデレーター=分析者の役割が理解

できない。

・話しを「盛っていい」ということも説明・理解が難しい。(事実だけでなくストーリーを作ってくれが難しい)

・会話だけでなく具体物を提示(例えばこちらがあらかじめ作ったペルソナを提示するなど)が必要。

・振り返りインタビュー、悉皆思い出しなど要求が多すぎた。(うまく依頼できていなかった)

 

CGMも言われてからだいぶ経つが実現はなかなか難しい。

相変わらず、供給サイドが企画政策提案して、消費者はただ受容するか、無視するかで意思表示するとの20世紀型マーケティングである。

消費者を巻き込んだリサーチはありうると考えている。

 

人数やブランド数のあれこれ

セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞した。行動経済学は本家の経済学よりもマーケティングに近い。と勝手におもっている。行動経済学は心理学(認知心理学であって行動心理学ではない)の知見を多く取り入れている。そのなかで、人の短期記憶容量の限界として、「マジカルナンバー7±2」というミラーが1957年に提唱した数字がある。正確には7チャンク±2であるから5チャンクから9チャンクになる。この説は荒野の7人、七草、ラッキーセブンなど7という数値の「神秘性?」にも助けられて納得生がいまでも高い。

その後、2001年にネルソン・コーワンが4±2を提唱し、現在はこれが主流になっているようだ。短期記憶の容量限界とは別に「視覚性ワーキングメモリー」の実験からその限界は「4」という報告がある。(Luck&Vogel 1997)視覚性ワーキングメモリーとは、いくつかの図形を瞬間的に提示され、900ミリ秒後に再提示された時、色が変化した図形があるか、それはどれかというテストのことで、人が正確に答えられる数は4つが限界という結果が出ている。このことも合わせるとマジカルナンバーは4がいいような気がしてくる。グループインタビューはグルイン、ももいろクローバーZはももくろなど略語、略称も4文字以内が多いことも4を納得させる理由である。

シーナアイエンガーの「選択の科学」では人が選択しやすいのは6個までの提示で、それ以上になるとプレッシャーから選ばない(買わない)という実験結果がある。また、ディスプレイにリッチ感を出すには6個以上の陳列が必要との実験結果もあるらしい。この6は4±2であるので、マジカルナンバーはやはり4なのであろう。我々もグループインタビューの最適人数は、体験から4人と考えている。

ダンバー数は150(正確には148?)と言われていてフェイスブックも含めて「親しさ」「顔見知り」の数は150人が限界だそうだ。

こういった数字の「魔力・魅力」は積極的に活用したい。

 

ネット通販のラストワンマイル

もう誰かが言っていることだと思うが、昨日半日考えたこと。今、消費と消費者の変化を考えていて、ネット通販の浸透とリアルなテンポはどこまで減るのかを集中的に考えた。アメリカではネット販売に大きくシフトし、Amazonだけでなく小売や製造企業がECシフトしているというニュースがあるが、当然、現実感がない。日本では、佐川急便からヤマト運輸への刺客としてのAmazon一括契約、Amazonとヤマトの契約見直し、Amazonの配送内製化、ヤマトの一般荷物の値上げというニュースになっている。その間、ヤマトのブラック労働も話題になった。

ゲームソフトなどネットだけで、配送・決済が完結しない「モノ」や「サービス」は、どれだけAI化、Web化が進んでも最終的にはモノの運搬という電子ではない実物の動きが必須である。製造者と消費者の間の物流ネットワークがあり、そのネットワーク上を昔は、情報(受発注)も流れていた。そこから情報だけがWebに移行したのに物流までWeb化したかのような誤解が消費者(一部メーカー側)にあったと思う。それを促したのが「配送料無料サービス」である。誰かがフリーランチ代を負担することになり、配送業者と製造業者がそれを負担した。この矛盾が出たのが2017年だと思う。

EC消費がない時代は価格の中に「物流費」がふくめられていた。それは工場から店舗までの運送(陳列)費であり、消費者宅へのラストワンマイルは消費者が負担していた。店舗までの交通費・労力である。徒歩から自家用車まで消費者負担であった。それより前の時代の「御用聞き」の価格には配達代が上乗せされていた。それが価格はそのままか安いのに自宅まで無料で配達してくれ、再配達代も無料となればECに流れるのは当然である。

流通業者も運送業も「ハブ&スポーク」の考え方にもとづいてネットワークを組んでいる。ハブが小売店舗でスポークは消費者の来店だったのが、ハブがAmazonでスポークがヤマト運輸なのだから、ECは消費者負担が少ない。フリーランチを食べていたのはAmazonではなく消費者だったわけである。

このラストワンマイルをドローンで支配しようというのがAmazonの戦略らしいが、この泥臭い最期の1マイルは電子のナットワーク作りとは根本的に違う。そんなことamazonも先刻承知だが。

協働インタビューの試み

定性調査でバイアスを考慮する必要はない、との持論を持っているが、なかなか理解が得られない。定性とはいえ、調査(リサーチ)である限りは調査主体は調査対象を「自然状態」において観察、質問すべきであるとの原則は認める。この考え方は、今の若者には想像すらできないだろうが、「対象者が生活している現場に出かけて質問してくる」いわゆる「訪問面接調査」という方法論に行き着いた。(新しい手法と思われるホームビジットは実は古臭い方法論なのである)生活の現場で生活(消費)について質問するのだから自然状態での反応(回答)が得られると考えた。

ところが、状況はインターネットの普及で大きく変化した。現場に出かける手間ヒマ、費用を考えれば、そこから離れてもデータは収集できるし、何よりもスピードと費用の安さが革命的だったので、原理原則は脇に追いやってネットリサーチに雪崩れた。繰り返しスピーディにリサーチができるのでリサーチが盛んになった利点の一方で、精度は問題にされることもなくなった。粗製とは言わないが乱造されるリサーチが価値を下げたのではないかと疑っている。結果、ネットリサーチ各社が価格競争に終始し、自らの首を締める状況が続いている。これでは若いリサーチャーは育ちようがない。

一方の定性調査にはこのような革命は起きていない。というより、定性調査は手法としてすでに革命を体験していたといえる。インタビュー調査は調査主体が現場に出かけることはなく(一部の1on1ではあるが)対象にとってはアウェイな環境に呼び出して質問するという形式をとった。呼び集める対象者は有意な条件をつけられので代表性とか母集団という考えは入り込めない。バイアスをかけまくった結果FGIが成立している。

バイアスをかけてしまうのなら、徹底的にバイアスをかけたインタビューにしてみてはどうだろうか。バイアスの最高地点は対象者の立場を捨てて調査者側の人になってもらってインタビューを受けてもらうことである。調査主体と調査される客体としての対象者という区別をゼロとは言えないがなくしてしまおう。これを協働インタビューとして試みていきたい。時々、現れる「消費者(女子高生)と一緒に商品開発」のような協働(共創)とは違う、定性調査の方法論として確立したい。

とりあえず、10月18日の「第6回アウラ・コキリコセミナー」でトライする。