生活心理分析とインサイト
油谷遵『マーケティングサイコロジー』(1984)にあるように生活心理分析は油谷さんの造語である。
彼は生活者の生活を「まるごと」把握することを目的としていた。
そのために
生活構造分析
生活行動分析 生活心理分析
という図式を提起した。
生活構造分析は、その生活を成り立たせている主に経済的な構造(背景)の分析である。
これは官庁統計をはじめ多くの統計データで分析可能(のはず)である。
生活行動分析は生活者の行動に関わる分析でデータとしては生活時間調査、パーソントリップデータなどがある。
もうひとつはエスノグラフィックなデータである生活場面での行動特性のデータ分析が考えられる。
生活心理分析には生活構造分析や生活行動分析のような定型的なデータはない。
その時、その場でデータ取得の設計を行いデータ収集をしないといけない。
通常は構成された質問しによる調査から面接(インタビュー)による定性的な調査を設計する。
調査にあたって、心理学でよく使われる(使われた)心の4つの窓をあげる。
A:自分だけが気づいている領域 B:自分も他人も気づいていない領域
C:自分も他人も気づきうる領域 D:他人のみが気づきうる領域
構成された質問文による調査が明らかにできるのはCの領域がせいぜいでABDの領域は心理面接による定性的なアプローチによるしかないとする。
A領域は生活者が気づいてはいるが「言いたくない」領域で簡単に言うと性に関するものが多い。
B領域こそが生活心理分析のプロセスで明らかにしていくべきことである。
D領域は本人はなかなか気づきずらい。簡単にいうと癖などである。
生活心理分析は面接(インタビュー)という手法で上記のABCDのすべてを明らかにしようとするものである。
ここで、油谷さんがこれを書いた当時はなかったであろうインサイトについて考えてみた。
A領域では生活者(対象者)自身がインサイトに自覚的なわけだから、あとはそれを表現することが恥ずかしいことでも反社会的なことでもないということをインタビュー(面接)で「説得」すればよい。
C領域はすでに明らかになっていることなのでインサイトとは言えない場合が多いと思われる。
D領域はインタビュアー(面接者)の観察能力(分析能力)が高ければインサイト発見の可能性が高い。
B領域は生活者(対象)と面接者(インタビュアー)との会話(情報)のダイナミックなやりとりの中で双方に新発見としてインサイトが析出される。
生活心理分析はインサイト発見のための手法なのである。