ニーズ探索から商品企画

新サービスを企画する時、なにか新しい技術やシステムがない限り、生活者のニーズ探索から作業は始まる。「今、この分野であなたが欲しいものは何ですか?」という調査はさすがにしない。現在は満たされていると思われる生活の中の気づかない不満、不足、不安、負担をあぶり出さないといけない。インタビュー調査や行動観察など定性的な方法でアプローチする。これは仮説なき調査になるが、まるっきりなにもないところでインタビューや行動観察しても得られることは少ない。ではどんな仮説が必要かというと帰無仮説ではもちろんないし、検証可能な作業仮説でもない。漠然とした人の生活やそれを囲む社会経済の構造、ひいては心理学進化生物学的な知識が必要だ。その知識が学問的であるよりは実践的に応用できる自由度を持っていればなおよい。

そういった広い仮説を持ってインタビュー、行動観察をを行うと不満・不足・不安・負担感が見えてくる。これらをマーケティング的に記述し、それらを解消するサービス商品を企画していけば良い。ここでハマりやすい落とし穴は商品企画が不満・不足・不安・負担の「解消」を目指してしまうことである。論理的に考えすぎるとこの落とし穴から脱出できず、「おもしろいけどそれほどでもない、わざわざカネ、手間をかけるほどのものではない」ものしか企画できない。つまり、マイナスをゼロの地点まで押し上げ、引っ張り上げても「当たり前」でしかなく、「魅力」を訴求することはできない。

このゼロ地点を突き抜けて圧倒的な楽しさや新しい価値を生み出せないといけない。そうするためにはニーズ探索段階で発見した「不・負」を忘れることも必要である。それらはバネとして利用するだけで商品企画は「不・負」を突き抜けていく必要がある。それができない「不・負」は社会福祉の世界でありマーケティングではない。

 

FGIのバンドワゴン効果

バンドワゴン効果を集団の同調圧力と解釈する前提(池谷裕二さん)で話を進める。醤油ラーメンを食べようと思ってラーメン屋に入ったら、その店は塩ラーメンが有名らしく。周囲を見てもみんな塩ラーメンを注文して美味しそうに食べている状況で、当初の予定通り醤油ラーメンを注文する人は少なく、塩ラーメンに変更する人が多い。これをバンドワゴン効果としている。(行動経済学の定義と少し違うようだが)言い換えれば、ラーメン店というバンドワゴンの乗ったら、その大多数のメンバーの「同調圧力」に従って行動(ブランド選択)する。ということ。

この同調圧力バンドワゴン効果)をうまく使うのもモデレーションテクニックのひとつである。FGIでは、あるブランドのユーザーをひとつのグループとしてリクルーティングすることが多いので、その集団は最初からバンドワゴン効果も持つことになる。そのブランドを褒める意見が主流となり、よい評価の方向の集団圧力が観察される。このバンドワゴンの同調圧力を盛り上げる方向でモデレーションすることでブランドのインサイトの発見につなげられる。ただ、分析ではこのバンドワゴン効果を差し引かないと実態以上のブランドロイヤリティをみてしまう。

もうひとつ、集団両極限化現象といえることが観察できることがある。これは、集団で討議すると各メンバーの評価・意見が個別では平均的であったものが討議が進むとどちらか(プラスマイナス)に極限化することを言う。例えば、競合メーカーが価格攻勢をしかけてきたときの戦略会議で、当初は穏健な意見が多かった会議が、終盤では「徹底抗戦」か「放っておく」の両極のどちらかの意見(結論)に偏ったり、抗戦派と厭戦派に二分されたりする。FGIの現場では2つのグループで結果が正反対になる現象がある。Aグループでは受容性が高いのに翌日実施したBブループでは完全否定されてしまうというような状況である。しかも受容と否定の理由に大差がなかったりする。こういったときはこの「集団両極化現象」が起こったと考えてみることが重要になる。

今までは、「グループダイナミックス」とひとくくりにしてきた人が集団を作ったときの認知の偏り、認知バイアスをもっと精確に計測するようにしたい。

リエゾン効果

医者のインタビューは1on1が多い。一般消費者と同じで表現力と人柄でインタビューの成功・失敗が決まる。モデレーションの技術はさておいて、すぐにデッドロックに乗り上げてしまう医者がいる。明らかに通り一遍、うわべだけの反応で、こちらの意図をわざと誤解しているのではと疑いたくなる。インタビュー時間も余ってしまい、聞くこともなくなり、気まずい雰囲気になる。医者はモデレーターより「上」と思っているので(実際、医学知識は圧倒的に負ける)喋りたくなければしゃべらない。

これがFGIになるとガラっと変わる。専門家・プロ同士のいい意味での「探り合い」が始まってテーマに集中してくれる。「先生のところではどうされてます?」「それはペーパーは出てるんですか?」などいきなり高度な話になることもある。この効果を狙ったのがリエゾンインタビューである。基本は1on1だが、形式的にはペアインタビューになる。2人を同時にインタビューすることで、1on1のようにそれぞれの深いことがわかり、お互いの刺激・関係性(探り合い)がペアインタビューのようにテーマへの集中度を増してくれる。

1on1はひとり欠席で成立しなくなるが、2人呼んでおけば、ペアインタビューを1on1に切り替えるという抜け道もできる。医者のような専門家だけだなく、エクストリームユーザーという共通項を持っていれば、一般消費者でもこのペアインタビュー効果(リエゾン効果)は得られる。

まだ、研究途中であるが、このリエゾン効果を体系化したい。

 

リエゾンインタビュー

1on1インタビューは対象者とモデレーターが1対1で対面する。対象者の行動・意識・感覚・感情の深い部分まで探れる優れた方法論である。これをもっと活用する方法を提案する。きっかけは、企業があるシステムを導入するにあたっての採用・不採用の基準は何かを探りたい。との課題だった。システム導入の意思決定者にインタビューしたがなかなかよい結果が得られなかった。原因を検討したところ、①専門分野の独特の言い回しや雰囲気の表現に企業ごとの個性が強く出ていた。②対象者が「どこまでしゃべってよいか」迷っていた。が仮説としてあがった。①は、対象者がどう工夫してしゃべっていいかわからないので、過剰なストレスを与えて沈黙が多くなった。②は競合関係にある会社の人(対象者)はどこまでしゃべって(情報開示)しているのだろう、との疑心暗鬼をもたらしていた。

そこで、1on1ではなく、グループでもない新しいペアインタビューを提案した。この例で言えば、システム導入の意思決定者を2社から同時に呼んで「強制的にペアを組ませて」インタビューした。このやり方をリエゾンインタビューと名付けたい。利点として、お互いのやり方(システム導入)を探り合う会話が自然発生した。そこから導入基準(課題)が見えてきた。お互いにけん制しあいながらも「どこまで話すか」がわかってきて、会話がスムースになり、思わぬ発見や知見が得られた。

リエゾンは、語末の子音は通常は発音しないが、次に続く語が母音で始まるときだけ発音するというフランス語などにある語の規則である。これをもじって、同じ専門の人2人を強制的に一緒にすることで、普通は黙音であるものを顕在化させるインタビュー方法のネーミングとした。リエゾンには連携、連絡の意味もあるのでよいネーミングではないかと自賛している。

使える分野としては、上記の専門家相手のインタビューや、いわゆるエクストリームユーザーのインタビューに使えると考えている。エクストリームユーザー同志でインタビューすると「オタクはどうしてるの?どうおもってるの?」とお互いが会話を始めてくれるのでより深いインタビューになる。

リエゾンインタビューは形式的にはペアインタビューだが、夫婦、恋人同士など関係性が出来上がったペアではなく、インタビューの現場で初めて顔を合わせるペアである。同じ専門分野、地位・立場、ブランドのユーザーなどの幅の狭い共通項を持つペアなのでテーマへの集中度が高くなる。

リエゾンインタビューのセミナーを開催します。

楽観マーケターと悲観リサーチャーの統合

前々から思っていたというか、業界の常識らしいが「マーケターは楽観主義者、リサーチャーは悲観主義者」というのがある。楽観的な人間がマーケターをめざし、悲観主義者がリサーチャーになりたがるのか、マーケティングをやっていると楽観的になり、リサーチをやっていると自然と悲観的になるのか、どちらなのかも話題になる。

よく考えると業務内容そのものからこの性向の違いが生まれてくるのがわかる。マーケティングは構成要素を統合的に考えるが、リサーチは部分に分解したがる分析志向になる。当然、戦略思考が必要なマーケと戦術分析のリサーチになる。来週、来月、来年、3年先の売上や新製品を考えるマーケターに対してリサーチャーは現在の市場や過去のデータに頼らざるを得ず必然的に後ろを振り返ることになる。将来に目が行くので主観や意思が強く柔軟に考えられるマーケター、現在・過去しか見ないので客観・事実にこだわりエビデンス重視の定型思考になるリサーチャー。

これでは前者が楽観主義になり、後者が悲観的になるのは当然といえる。昨今のビッグデータ分析や機械学習が進展すれば、データを扱う人々も将来を向き、判別(識別)や予測をするようになるだろう。そうすれば、楽観主義のリサーチャーが生まれ、将来予測の精度が上がると悲観的マーケターが生まれるかもしれない。その間にデータサイエンティストが生まれてきているが彼らの基本性向は楽観なのか悲観なのか。

インサイトからブランドストーリーへ

インサイトは「購入に当たっての最後のひと押し」が初期の定義だったと思う。人口に膾炙するに従って「ah!」体験やユリイカと同じように解釈されてきた。今、定義すると「何らかの理由や作用によって抑圧されたり、隠されていたもの(購入の動機や心理的きっかけ)が、ある操作(MRの場合は集計結果やインタビューでの発言)によって現前すること」くらいの広いものになろう。この広い意味を獲得したことで死語になることもなく一定程度の定着を果たした。(使用頻度は下がっている様子だが)購入動機に似た「消費者インサイト」の狭い意味から、消費に直接関係ない「発見」すべてをカバーするコトバになったといえる。

インサイトは大げさに言うと「啓示に打たれる」体験である。啓示と「単なる思いつき」の違いは大きい。啓示を得るにはそのことについて普段から考え続けることが必要である。神のことを考え続け、思い続けることで神の啓示が得られる。インサイトも同じでそのことを考え続けた先に現れる。また、インサイトは言語表現しないと周囲に伝わらない。周囲に伝わらないことはマーケティング的には無意味である。インサイトの言語表現は短いコトバで語ることが多い。その短い表現に文脈やストーリー性を与えないとインパクトや伝達力が弱くなる。この文脈やストーリーは過去の蓄積(考え続けてきたこと)とインサイトによる新しい創造性が必要である。インサイト発見・表現・活用の一連の作業はクイエイティブ性が高いのである。

インサイトをストーリーまでに育て上げることはマーケティング作業そのものである。インサイトから創作されたブランドストーリーはオンリーワンであり、差別性に優れている。競合にMetoo戦略以外の選択肢を与えない程のブランドストーリーを作ることがポスト平成のブランド戦略といえる。

マーケティングインタビューのアスキングとリスニング

このところ、モデレーションでのアスキングとリスニングを考えている。もちろん現場ではこの2つをミックスして使っている。モデレーター教育は主にアスキングの方法が追求され、リスニングの方法は特に教えられないことが多い。ただ、モデレーター技術としてアスキングよりもリスニング技術が重要である。

MR全体で言えば、アスキングは定量調査でリスニングが定性調査と大別できる。質問紙(画面)形式のリサーチは質問文と回答選択肢の組合せでアスキングというより対象者の「反応」を取っているとも言える。アスキング項目は固定で回答も制限されているから、質問紙(画面)調査では、臨機応変で柔軟なアスキングはできない。OA、FAは回答選択肢がないのでリスニング要素が少しあるが、アスキングに柔軟性はない。

ということで、アスキング・リスニングがテーマになるのは定性(インタビュー)調査となる。前述のようにモデレーター教育はアスキングの方法に重点が置かれる。というより、アスキングは教えられるがリスニングは教えるのが難しいのである。アスキングは結論に直結するのにリスニングはモヤモヤ感が残って結論できないことも多い。例えば、風邪をひいたと思って医者に行ったとして、医者から「熱は何度?」「喉は痛い?」「鼻水はでる?」と聞かれ、「はい、風邪ですね。お薬出しておきましょう」とのA医者と、「具合が悪いんですね?」「いつからですか?、どんな具合ですか?」「気分は?」などイエスノーでは答えられない診察をするB医者と比較する。A医師は、風邪との仮説(先入観ともいえる)をもってそれを検証するアスキングを連発しているのにB医師は患者の「風邪かも」という仮説にとらわれず、患者の様子・状態を聞き出そう(リスニング)としている。患者が「風邪らしいから早く薬だけ欲しい」と思っていればA医師を選ぶだろうし、「風邪らしいが、このところストレスフルなので違う病気かもしれない」と思っていればB医師の診断に満足度が高くなる。医者の立場から見ればA(アスキング)は診察が簡単だし時間の合理化になる。Bタイプは診断が難しくなり診察時間も長くなる。

MRでも結論は見えていてそれの確認のインタビューであればAタイプのアスキングが中心になるし、それで問題はない。リスニングインタビューが必要なのは課題(結論の方向性)が微妙であったり消費者心理の奥深いところを探る必要があるときである。アスキングの方法はプロービングに集約できる。対象者の発言の不十分さをその場でたずね直すのがプロービングで、我々は「プロービングの5原則」でその方法論をまとめている。一方、リスニングの方法論は現在研究中で、共感と観察力が基本と考えている。観察力では、ラポールができたらモデレターは退出してしまって対象者同士を自由に喋らせる(FGIでしかできないが)という方法がある。ただ、リスニングインタビューでの方法論としては弱いと考えている。共感は非常に難しい。うわべ(ウソ)だけではない共感を相手に納得させる一般的な方法はない。今のところ、その時のマーケティングテーマを越えて対象者の生活や意識の背景を想像する。対象者の発言にすぐに反応しない(プロービングしない)でひたすら聞き役になる(コンテクスチュアルインクワイアリー)などがあげられる。今後、リスニングインタビューの方法論を研究していきたい。