作話とマーケティングインタビュー

作話とインタビュー方法の関係を考えていて2年ぶりに「Sideswipe」アドベントカレンダー24日目を読みなおした。

分離能患者の例。脳梁を切除した患者の左視野(右半球で処理される)に「歩け」というカードを見せると、患者は席を立って部屋から出て行く。「何故、出ていった」と聞くと「コーラが飲みたくなって取りに出た」と答える。言語野のある左脳には「歩け」の情報は届いていないので、歩けと指示されたという回答はできない。部屋を出ていった理由は「作話」である。(スペリー)

前向性健忘患者。海馬に損傷を受けて以来新しい記憶が保持できない。医者と握手する時、医者が手に電気刺激を与える仕掛けを握って握手した。電気刺激は不快であるが、患者には記憶として残らない。翌日、また握手をしようとすると患者は拒否する。理由を聞くと「さっきトイレで手を洗わなかったから」と言う。これも作話。

ザガニガの例(実験)脳の左半球、右半球それぞれに(卒業したら)何になりたい、と質問すると、左半球は建築家と答えたのに右半球は「カーレーサー」だった。(右半球にも言語能力があるのでなりたい職業を書かせたらしい)この結果には被験者自身も驚いた(全く意識に登っていない回答だった)ここから左半球は意識を統合しているとの結論。右半球のカーレーサーの情報は脳梁を通って左半球に送られてくるが、統合過程で上書きか、競合して消えるという解釈。

有名なリベットの準備電位の実験。手を動かすという意識が発生する前に運動電位が発生しているという実験結果。「自由意志の幻想」の根拠とされる。

以上を無理やり消費者のブランド選択の理由を聞くインタビューに当てはめると、ブランド選択行動は意識される前に決まっている。選択理由を聞かれれば、その多くは「作話」で占められる。(意識はブランド選択行動の理由を知らないが、理由を作り出す=作話能力はある)ということになろう。我々は作話を聞き出して消費行動の理由、時にはインサイトなどと言って喜んでいるとの皮肉が出てくる。

だがしかし、ここで重要なのは、作話の中にこそ真実があるということではないだろうか。行動の理由である意識は、行動の後から生成されるを認めるなら、その行動を推す意識はその人の日常生活の文脈・ストーリーの中に潜んでいると考える。その文脈・ストーリーは咄嗟の作業である作話の中に現れる。のである。