林知己夫『調査の科学』

ちくま学芸文庫から出ていた。
ブルーバックス版より値段が高いが仕方ない。
電子書籍が普及すればこういった古典が読みやすくなるのになと思った。

読んで気づいたことのひとつにSCIという調査(今は名称が変わったらしいが)が非常に堅牢に設計された調査であったということ。
ユニバースから母集団規定、層化多段抽出、信頼できる抽出名簿からの無作為抽出と理論通りの設計だったことに改めて感動した。
「サンプル数を多くしても精度はそれほど上がらない。層化2段抽出で地点数250〜350あたりがもっとも効率的」という記述がある(p60)
記憶だけで正確ではないが当初のSCIの地点数に近い数字だと思う。(SCIの母集団は2人以上普通世帯、林先生は世論調査の母集団のことを言っている)

有意差検定についても「有意」という名称に苦言を呈している。
サンプル数を増やしていけば「有意差はある」ことになる。AとBが全く等しいということは現実的にはありえないからである。
帰無仮説は数学的仮説であって、そのまま現実に当てはめることはできない。(p124)

市場調査の世界は今や「調査の科学」はふっ飛ばして進んでいるように思える。
それは悪いことではないが、新しい「調査の科学」を考えることも必要であろう。
「お前がやれ!」と言われても困るが。