チンパンジーの自立

松沢哲郎「想像するちから」という本でチンパンジーと人間の子育てを比較していた。(p36あたり)

  チンパンジー                ヒト
 5年に1回生む                年子でも生める
 妊娠期間240日               妊娠期間280日
 授乳期間が長い(5年くらい)        授乳期間は2年くらい
 母親が1人で育てる             祖父母や他人まで含めた共同作業
 父親(の役割)は群のオス全員      父親は1人

妊娠期間や子供の体重に大きな差はないが子供を産む(産める)インターバルに大きな差がある。
それは、チンパンジーは母親ひとりが子育てをするのに、人間は家族と場合によっては他人も含めた共同作業(共育)であるという違いからでてくるらしい。
チンパンジーは「シングルワーキングマザー」であるため子育て中は1人の子供に集中する。(パン属には双子の確率は低く、2人とも成長する確率はさらに低い)
チンパンジーは、子育て中(授乳中)は生理が止まって排卵しない。授乳が終わると生理周期がもどり、次の妊娠のチャンスが生まれる。
こういった仕組みが人間に組み込まれていないのは、人間は母親以外の家族(父親や祖父母)が子育てに参加するからであると松沢さんは考える。

人間は子供が独り立ちする前に、手のかかる子供を次々に産んでみんなで育てる。
では何故、次々と子供を産むようになったかというと
・人間の子供が自立するのに7〜8年かかる
・人間が17、18歳から7、8年おきに子供を産むとして50歳までに4人くらいしか産めない。
・乳幼児死亡率をチンパンジーと同じ3割とすると出生率は2.8になる。
出生率2.8では種として生き残れない。

妊娠期間や子育ての時間は短くできない(合理化できない)ので早く離乳して生理周期を戻し早く次ぎの子を妊娠して、複数の手のかかる子供を「共育」するという進化戦略を人間は採用した。
そのためにチンパンジーとは違って「つがい」を形成し、それを重視しながら、寿命を伸ばすことで生殖期後も生きる祖母をつくり、祖母も育児に参加させることにした。

こうしてカップルの紐帯を強くし、父親を含めた親子関係、さらには「家族」関係の強さが進化上の優位をもたらした。
共に育てる、共に育つことが人間の特徴であると松沢さんは主張する。

生活史の観察結果だけから判断すれば、人間よりチンパンジーの女性の方が「個の自立」ができているのである。(村落)共同体の強い紐帯から解き放たれるのが近代的自我の確立の第一歩であったが、自立してみたところで(シングルワーキングマザーは)非常にシンドイ生き方である。
さらには今回のような制御できない天災の恐怖は、強い不安と孤独感を生む。

最近、ニュースにあった、震災後結婚指輪がよく売れ、結婚紹介業が活況を呈しているという事実は、人間の生活史の観察から説明できるかもしれない。