対象者を愛しましょう!

「先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!」という本を読んだ。
小林朋道さんという鳥取環境大学の先生の「先生、…」シリーズの4作目らしい。
森の人間動物行動学とサブタイトルにあるが、人間動物行動学という学問分野はあるのだろうか。
そんなことはどうでもいいのだが、新鮮だったのは、こんな古い生物学(失礼)がまだ存在していて、しかも中身が非常におもしろいことである。
分類学的生物学、観察による生物学、動物行動学(ローレンツと刷り込みくらいは知っていた)の時代は既に過去のものとなり、DNAの二重螺旋構造の発見、ゲノムの解読以降の生物学は完全に分子生物学に代表されるようになって、のんびりと(またまた失礼)動物や植物を観察するような生物学は存在しないとおもっていた。

ところがこの本では、分子生物学、脳科学の知見と、現実に生きて行動している動物(ヤギコが代表)とを結びつけて観察者の視点で記述している。
古さも時代遅れも感じさせない文字通り「生き生きした」文章が楽しい。(オヤジギャグが鬱陶しい部分もあるが)

生物を分子レベルまで切り刻んで分解し、分析しても生物の誕生、成長、進化(種としての)をトータルで把握・理解することはできない。
もちろん、動物の行動を注意深く観察するだけでわかることも少ない。(ヤギコにインタビューすることは不可能だ)
この本を読んでいると、観察から多くの知見を得るには「観察対象」を好きになることが大切だということがヒシヒシと伝わってくる。動物を愛せない人は観察者に向かないということだ。

ひるがえってマーケティングリサーチにもこの対象への愛が必要だろうと考える。
少なくとも人間嫌いにモデレーションはできない。対象者にベタベタしろということではない。冷静な観察者としての視点は重要だがそれだけでは対象者の行動(心理)を理解できない。
まず、人間好きでないとモデレーターは失格であろう。

定量調査の場合はデータと解析手法への愛情ということか。
だが、バラバラにデータ化されている場合でも生きて行動している対象者を「まるごと」想定できる想像力も重要なのでろう。(それがペルソナになるのこも知れない)