文月悠光

青信号の点滅に私が踏みとどまるとき
ひとりの女が横断歩道へ歩みでる
せつな、赤い光がその頬にさした。
赤信号を悠々と渡る、女のまっすぐな背中、
焦点のようなそれが忘れられない。
子どもたち!
幼い頃の記憶を見すえたまま、私は呼びかける、
色に従うことを余儀なくされた記憶から、
抜け出すための横断歩道。
あそこに照っているのは
赤や青黄に、ももすみれときわ色。
渡りきるまで、
たくさん轢かれてみよう。
ランドセルも道連れだ。
さぁ、この喉は声を発す。
だが、血も吹く!
保険おりるな。
だから
おりてこいよ、ことば

文月悠光さんという詩人が高校生の時に作った「横断歩道」という詩の後半部分です。
コトバの常識や規則を乗り越えることが、詩を作ることだと単純には言いませんが、保険にも入らず、赤信号を背中を真っ直ぐにして無視して歩きださないとコトバは下りてこないのです。
そこを「轢かれてみよう」と子供達を誘うところが新鮮に感じられました。

金井美恵子の再来と言われているらしいですが、彼女よりやさしそうです。
個人の資質か時代のせいかわかりませんが。