原票紛失

最近、何十年振りかで調査票からインプットして集計するという仕事をしました。A4裏表の簡単な調査票でしたが、懐かしかった。
リサーチの世界では記入された調査票のことを原票といい、非常に神聖なものとして扱うよう教育されたものです。その名の通り、原票が調査の原点であるからです。
これを調査員が電車の網棚に忘れた、アルバイトが持ち逃げ(動機は今でも不明)した、という原票紛失事件が昔の調査会社で時々発生していました。
こんな時は、現金輸送車が襲われた銀行のような大騒ぎになったものです。

分析は集計表と調査票をみながらやります。
インプット作業が終わった調査票=原票はゴミにすぎません。
ただ、今回も感じたのですが原票を生(コード化される前)で見ることは分析に多くのひらめきと発見を与えてくれます。
今回、異常値チェックでひっかかった原票をみたら、記入ミスではなくあり得る数値であることが発見できたのです。
詳しい内容は書けませんが、美術館にこの1年で120回行っているという異常値の原票に当たったら、回答欄の余白に「○○の模写のため」とありました。

理由はわかっても120回という数値は異常値は修正するか集計から外すことになりますが、 これがネットリサーチならあらかじめプログラムされた最大値に自動修正されるてしまって、「美術館の使い方は鑑賞だけではない」という気づきを逃します。
こういう発見は分析レポートには書かないのが普通ですから役に立たないといえばその通りです。
しかし、こういった発見のスリルがないと分析はおもしろい作業とは言えなくなります。

そして、よく考えると(よく考えなくても)インターネットリサーチにはそもそも原票がないのです。
あんなに大切にすべきと教わった原票が最初からないリサーチが成立しているわけです。
原票紛失事件がなくなったリサーチの世界は平和ですが、基準化された正規分布のノッペリした顔だけになっているのではないでしょうか。