歴史としての戦後史学

網野善彦さんの回想録です。
ご専門は中世史ということですが、百姓の本来的な意味を明らかにしてくれたこと、無縁という概念を導入して日本の社会構造を分析し直した画期的な仕事をした歴史学者です。

その網野さんが、若い頃、自分の理念を先行させた論文を書いてしまい、それを書かせた理念の運動にも挫折し、学者として非常に遠回りをしたそうです。
そのせいもあって、「網野史学」は正当な扱いを受けていないのかも知れません。
その網野史学を生み出したポイントが「資料を虚心坦懐に丁寧に読み込む」という方法論?の発見だったそうです。
ある理念を持って資料を読むことの危険性の認識といってもいいと思います。

我々、マーケティングリサーチに関わる者もこの資料(データ)の読み込みが大切です。予見を持たずにデータだけに語らせるわけですが、これが意識していても難しいし、集中力が続かない。
どうかすると自分の頭のなかにあるストーリーに合うデータだけ採用し、合わないデータは捨てたり見なかったことにしてしまう傾向が出てきます。(この方がラクだし、レポートも早く仕上がる。)

さらにリサーチは、まず、仮説を立てろと教わります。
ところがこの仮説がクセモノで、たてた仮説がいつの間にか思いこみに変化してしまうことがあります。しかも本人は気づかない。
こういった仮説=思いこみの図式はクライアント側にもあって、最近では「この不況で消費者は節約指向になっている」というのが典型です。
こういったマスコミ的風説は本来はリサーチの仮説ではないのですが、仮説作りが困難だと安易な方に流れてしまいます。

調査票作りには仮説が重要ですが、データを読み込む時はその仮説を忘れることも大切だと思います。