吉本隆明「共同幻想論」とリエゾンインタビュー

吉本隆明の読者であったことは一種の黒歴史になっている。それはそれとして、換骨奪胎いろいろ利用してリエゾンインタビューの理論づけに使ってみる。リエゾンインタビューは疑似ペアインタビューで、その疑似が豊かな物語(対幻想)を生むという利点を持っている。1on1インタビューは、個人の幻想を物語るもので、モデレーターはいるものの独白に近い。独白は始めるとすぐに行き詰まり、繰り返しばかりになる。それほどゆたかな幻想(物語)を持っている個人は少ない。まして、それがマーケティングテーマだったりすると「たまたま」や「よくわかんないけど」でデッドロックに乗り上げる。

これへの対策がFGIである。3人以上のグループで共同幻想(物語)を作ってもらうのである。個人と違って対話が成立するので、「気づき」や「物語の展開」があるので行き詰まりは少なく豊な共同幻想(物語)が語られることが多い。(業界的にはグループダイナミックスという)欠点はあらかじめ共同体を組織するので、知らず知らず社会規範や関係性の保持の圧力が働き、予定調和的共同幻想に流れ、いちどそこに流れ着くとモデレーターの技量だけでは脱することはできないことである。それどころかモデレーター自身が無意識に予定調和に誘導していたりする。その方が三方(クライアント、モデレーター、対象者の三方)丸く収まるが、新しい物語は生まれない。

個人幻想と共同幻想の間に対幻想を吉本隆明は設定するが、これが結構曲者である。隆明が強く影響を受けたフロイト心理学の影が大きく、性的な対の要素が強い。ここから家族、共同体、国家までを敷衍するのだから、それはそれでスリリングではあるが、マーケティングの世界ではない。この対幻想を性的なことを捨象して対幻想(ペア)を考え直せばよい。マーケティングインタビューでもペアインタビューがあるが、これは夫婦とか恋人同士とか家族全体(ネクサスインタビュー)を対象とするので隆明の対幻想概念をそのまま使える。

リエゾンインタビューはすでに出来上がった紐帯(ペア)に頼ることなく、その場でできたアットランダムな関係性を頼りに対幻想を物語たろうとする新しい方法論である。1on1より優れている点は、新たな対をキーにして2人の共同幻想語るので、個人幻想に沈むことなく、豊かで新鮮な物語が語られる可能性が高い。1人では貧弱な個人幻想がたまたま出会った他者の幻想に刺激され、活性化するのである。しかも、2人であるから社会性は小さく、社会規範や慣習による抑圧も少ない。ここから、共同幻想としての新しい価値が抽出できる。

共同幻想マーケティング的に解釈すると「ブランディング」が当てはまると思う。個人幻想は個人としてのブランド評価と考える。共同幻想は集団としてのブランディングであり、時として個人を阻害する。対幻想としてのブランディングは、そのものよりも共同幻想の歪みを是正してくれると考えている。ただ、個人的にはリエゾンインタビューこそが、ブランディングそのもを表現できると考えている。

*ここでのブランディングは、消費者サイドのブランディングであり、ユーザーブランドストーリ(幻想)である。