インサイトからブランドストーリーへ

インサイトは「購入に当たっての最後のひと押し」が初期の定義だったと思う。人口に膾炙するに従って「ah!」体験やユリイカと同じように解釈されてきた。今、定義すると「何らかの理由や作用によって抑圧されたり、隠されていたもの(購入の動機や心理的きっかけ)が、ある操作(MRの場合は集計結果やインタビューでの発言)によって現前すること」くらいの広いものになろう。この広い意味を獲得したことで死語になることもなく一定程度の定着を果たした。(使用頻度は下がっている様子だが)購入動機に似た「消費者インサイト」の狭い意味から、消費に直接関係ない「発見」すべてをカバーするコトバになったといえる。

インサイトは大げさに言うと「啓示に打たれる」体験である。啓示と「単なる思いつき」の違いは大きい。啓示を得るにはそのことについて普段から考え続けることが必要である。神のことを考え続け、思い続けることで神の啓示が得られる。インサイトも同じでそのことを考え続けた先に現れる。また、インサイトは言語表現しないと周囲に伝わらない。周囲に伝わらないことはマーケティング的には無意味である。インサイトの言語表現は短いコトバで語ることが多い。その短い表現に文脈やストーリー性を与えないとインパクトや伝達力が弱くなる。この文脈やストーリーは過去の蓄積(考え続けてきたこと)とインサイトによる新しい創造性が必要である。インサイト発見・表現・活用の一連の作業はクイエイティブ性が高いのである。

インサイトをストーリーまでに育て上げることはマーケティング作業そのものである。インサイトから創作されたブランドストーリーはオンリーワンであり、差別性に優れている。競合にMetoo戦略以外の選択肢を与えない程のブランドストーリーを作ることがポスト平成のブランド戦略といえる。