マーケティングインタビューのアスキングとリスニング

このところ、モデレーションでのアスキングとリスニングを考えている。もちろん現場ではこの2つをミックスして使っている。モデレーター教育は主にアスキングの方法が追求され、リスニングの方法は特に教えられないことが多い。ただ、モデレーター技術としてアスキングよりもリスニング技術が重要である。

MR全体で言えば、アスキングは定量調査でリスニングが定性調査と大別できる。質問紙(画面)形式のリサーチは質問文と回答選択肢の組合せでアスキングというより対象者の「反応」を取っているとも言える。アスキング項目は固定で回答も制限されているから、質問紙(画面)調査では、臨機応変で柔軟なアスキングはできない。OA、FAは回答選択肢がないのでリスニング要素が少しあるが、アスキングに柔軟性はない。

ということで、アスキング・リスニングがテーマになるのは定性(インタビュー)調査となる。前述のようにモデレーター教育はアスキングの方法に重点が置かれる。というより、アスキングは教えられるがリスニングは教えるのが難しいのである。アスキングは結論に直結するのにリスニングはモヤモヤ感が残って結論できないことも多い。例えば、風邪をひいたと思って医者に行ったとして、医者から「熱は何度?」「喉は痛い?」「鼻水はでる?」と聞かれ、「はい、風邪ですね。お薬出しておきましょう」とのA医者と、「具合が悪いんですね?」「いつからですか?、どんな具合ですか?」「気分は?」などイエスノーでは答えられない診察をするB医者と比較する。A医師は、風邪との仮説(先入観ともいえる)をもってそれを検証するアスキングを連発しているのにB医師は患者の「風邪かも」という仮説にとらわれず、患者の様子・状態を聞き出そう(リスニング)としている。患者が「風邪らしいから早く薬だけ欲しい」と思っていればA医師を選ぶだろうし、「風邪らしいが、このところストレスフルなので違う病気かもしれない」と思っていればB医師の診断に満足度が高くなる。医者の立場から見ればA(アスキング)は診察が簡単だし時間の合理化になる。Bタイプは診断が難しくなり診察時間も長くなる。

MRでも結論は見えていてそれの確認のインタビューであればAタイプのアスキングが中心になるし、それで問題はない。リスニングインタビューが必要なのは課題(結論の方向性)が微妙であったり消費者心理の奥深いところを探る必要があるときである。アスキングの方法はプロービングに集約できる。対象者の発言の不十分さをその場でたずね直すのがプロービングで、我々は「プロービングの5原則」でその方法論をまとめている。一方、リスニングの方法論は現在研究中で、共感と観察力が基本と考えている。観察力では、ラポールができたらモデレターは退出してしまって対象者同士を自由に喋らせる(FGIでしかできないが)という方法がある。ただ、リスニングインタビューでの方法論としては弱いと考えている。共感は非常に難しい。うわべ(ウソ)だけではない共感を相手に納得させる一般的な方法はない。今のところ、その時のマーケティングテーマを越えて対象者の生活や意識の背景を想像する。対象者の発言にすぐに反応しない(プロービングしない)でひたすら聞き役になる(コンテクスチュアルインクワイアリー)などがあげられる。今後、リスニングインタビューの方法論を研究していきたい。