ニーズはとかくルーズになりがちである

原研哉さんのコトバである。
マーケティングの世界でニーズというと消費者ニーズである。
消費者が何を望んでいるか、今、やっていること、これからやろうとしていることが消費者の望んでいることなのか、はマーケティング関係者にとってなかなか理解・納得が難しい。
たとえ、現在の売上が順調であっても「何故、売れているのか?」の理解が消費者ニーズとズレていたりすると売上がダウントレンドに入ったときの対応策が間違う可能性が大きくなる。

マーケティングリサーチの世界では消費者ニーズを顕在ニーズと潜在ニーズに2分することが多い。
そして、潜在ニーズを探ることがリサーチの目的とされる。
潜在ニーズとは消費者自身が気づいていない「意識下」のニーズという意味であろう。
ここで潜在する理由を考えると
・適当な表現=コトバが与えられていないので気づかない
・さまざま抑圧が働く(倫理・宗教、社会的などいろいろな抑圧)
の2つが大きいといえる。
だからリサーチで直接訪ねても回答は得られないか、間違った回答(ウソと意識しないウソ)しか得られない。
いろいろな質問文のクロス集計の相関関係の分析や因子分析の軸の解釈などから潜在しているニーズにコトバを与えることで潜在ニーズを発見しようとする。
定性調査ならインタビュー対象者の「心理分析」から潜在ニーズにアプローチすることになる。

以上が教科書的な潜在ニーズ分析になるだろうが、成功例は極めて少ない。
そんなことを思っていたら、原研哉さんのコトバがひっかかった。

「(消費者)ニーズはとかくルーズになりがちである」

原さんはデザイナーなので、デザイナーの視点からのコトバであるが、デザイン開発の途中で、ルーズになっていくニーズを眺めて「やれやれ」と思っている姿が浮かぶ。

考えてみれば、消費者ニーズの発見は消費者自身ではなく、マーケターやデザイナーにしか直接的な価値をもたらさない。
具体的な商品やサービス、デザインが提供されて初めて消費者は自分のニーズに気づくのである。
その場合でさえ、気づきに自覚的でないことが多いが。
ということは、消費者ニーズは事後的にしか発見されない。といえるかもしれないし、顕在ニーズという言い方もおかしいのではないか。

消費者は「生活のために生活する」トートロジーの世界で生きている。