雪の音

「ピッチピッチちゃっぷちゃっぷランランラン」の続き。
お迎えに来てくれるお母さんが持っているのがジャノメ傘。
子供の頃、さした記憶がある。
家では「ばんがさ」と呼んでいたがジャノメ傘と違うのか同じなのかよくわからない。
そのころはコウモリ傘が新しくカッコよかったのでばんがさは貧乏人の傘だった。
今、思い返すとばんがさは重くて大きかった。
竹細工の見事さ、張ってある紙の色、適度に光を通す薄さ、などは真っ黒いだけのコウモリより数段上の価値があるが、それも大人になってから気付いたこと。

ばんがさのよさは「音」にもあった。
紙に油をしいて防水していたので雨があたると「ぱんぱん」というか独特の軽い、明るい音が楽しめた。
激しい雨かやさしい雨か眼だけでなく耳でも感じることができた。
そういえば、当時の家はトタン屋根だったので家の中にいても雨の様子がよくわかったものだ。
夕立の時は雷の音もかき消してしまうトタン屋根の雨音。

最近の家は音を出さない、入れない機能が充実してウチとソトを完璧に分けてしまう。
だから天候を五感で感じることがしずらくなっている。
その方が「生活」は快適になる。
もう、方丈記の世界ではない。

20年くらい前、日本酒のネーミング開発で、200くらいの既存のネーミングを分析し、新しい日本酒の名前を提案した。
それが「雪の音(ね)」
クライアントも気に入ってくれたが、既に他社が登録していた。
事前にチェックせずに開発していたという牧歌的な時代。
その時「女なかせ」というネーミングはどうにも分析できなかった。
日本酒は西洋のマーケティングという思想にはなじまない。のかもしれない、と思った。