ダニエル・カーネマンとモデレーション(統計的予測と臨床的予測)

「ダニエル・カーネマン心理と経済を語る」の自伝の部分におもしろい記述があった。(p75あたり)
21歳で中尉としてイスラエル軍に赴き、すぐに「新兵の適性テストをもっと信頼性の高い方法にせよ」との命令を受けた。
その当時、女性エリートの面接官が新兵候補全員に面接し、兵役不適格者をふるい落とし、さらに各人がどんな任務に適性を持っているかを判定していたそうだ。
砲兵向き、戦車隊向きなどの適性を見極め、そこでどの程度の働きができるかどうかを彼女たちが面接して判定(評価)していた。
ただ、その結果があまりに惨憺たるものだったのでカーネマンに命令がくだった。

カーネマンは自分の課題を
?ある特定の戦闘業務に他の業務より「向いている」性格的な傾向があるかどうか
?そういった傾向を見つけ出すための面接のガイドライン作り
の2つに設定した。
まず、各部隊を訪問し、所属する兵士の評価(成績)と性格的な傾向のデータを収集した。
このデータ解析の過程で「多属性異分散データ分析」(こう訳されている)の手法を編み出した。
この統計的予測を面接(インタビュー)で実施するために6つの態度属性を明らかにする面接項目を作り出して面接官にこれ(インタビューフロー?)に従うように求めた。

ここで、プロ意識を持つ面接官から総スカンを食らうのは目に見えている。
彼女らは、自分たちの誇りである臨床的方法が無視され、面接マシーンになることを強要されたと反発した。
妥協が成立し、6つの態度属性に関する定型的質問をおこなった後は(自由に)自分の臨床的面接を行ってよい、ということになった。

結果は妥当性(予測精度?)が0.10から0.30近くまで上がって、長い間(今でも?)イスラエル軍で使われたそうだ。
ここで注目は、この方法によって、統計的予測だけでなく、臨床的精度(面接官の評価・所感)も従来に比べて格段に適切のもの(的を射た)になったという記述である。
統計的方法と臨床的方法、インタビューフロー通りの面接とモデレーターの創意工夫による面接との融合がよい結果をもたらしたのではと考えらるのである。
我々の日ごろのインタビューの中にも取り入れられる部分があるのではないだろうか。

カーネマンは、ここで、「直感的予測」という概念を導き出してトヴェルスキーとの共同研究に入って行く。