ブランド想起

池谷裕二さんの「記憶を強くする」(ブルーバックス)を読んだ。脳科学の本は何冊か読んでいたし、自分では記憶とか意識の発生の仕方はある程度「科学的」な理解ができたつもりでいた。
この本は2001年出版で、池谷さんの最初の本だそうだで、非常にわかりやすかった。というより、わかったつもりになっていた自分の知識の薄さに気づかされたのである。

次回のセミナーのテーマに
・消費者のブランド認知はどういったメカニズムを持つのか
・fMRIのような大がかりな装置を使わずにニューロマーケティングの研究ができないか
を考えていて、それへのヒントがいくつか得られた。ただ、すぐにセミナーが実施できるほど確たるものにはなっていない。

マーケティングリサーチでブランドの認知率を取るとき、純粋想起と助成想起の質問文を作る。「第三のビールと言われるものがありますが、その中であなたがご存じのブランドを全てあげて下さい。」と質問して対象者の回答をそのまま記述するのが純粋想起、ブランド名を提示して「知っているもの」をチェックしてもらうのが助成想起。
このリサーチ(質問)は、消費者は何らかのきっかけでブランド名に関する情報に接触し、その情報を(脳に)記憶し、質問というきっかけで想起(思い出す)するというプロセスを想定している。
そして、この本でも情報接触から記憶まではある程度解明されたが「想起」に関してはまだ手つかずの状態であるとしている。
また、記憶の解明もこの本が受験生を想定ターゲットとしているので記憶が勉強と結び付きすぎて、消費者がブランド名を憶えようと意識せずにする記憶のプロセスとは少し違う気がする。

マーケティングリサーチでは「記憶」は認知経路の質問であろう。だから想起の次の質問になる。その想起は科学的には解明されていないのだが、少し考えてみる。
池谷さんは、再生(想起)とは「思い出せ」という指令によって、必要な情報のかきこまれている神経回路を発見することである。と述べている。ここから「思い出せ」という指令は意識(前頭葉)と関わる極めて複雑なもので記憶の解明より難しいといっている。トラウマや抑圧まで考えてしまう一般的な記憶の想起は確かにそうかもしれないが、リサーチの「思い出せ」という指令は調査側から対象者にストレートに発せられてしまう。
単純な刺激→反応プロセスと考えられる。

それであれば、やはり、ブランド名を記憶するプロセスの方が研究のしがいがありそうだ。