いれこむ、入りこむ、踏みこむ、棲みこむ

リサーチャーとして、インタビュアーとして対象(人間だったりそのときのテーマだったり)に対峙するときの態度をいろいろ考えてきました。

対象に「いれこむ」のは初期の段階です。(いわば素人)
いいインタビューをしようと「入れ込み」が激しく、対象にストレートに迫ってしまう状態です。対象者には「何故なのか」を連発して反感を買い、テーマについては何か新しい発見をしようと無理やりな解釈を行う危険があります。入れ込みもなく淡々とインタビューされても困りますが、担当者だけが入れ込んでもよい結果は得られません。

入り込むとはカウンセリング的な態度のことで相手に共感性をもって接触するということです。自分の立場を一度「無」にして対象の心の中に「入り込んで」理解し、その後そこから抜け出して冷静な分析をすることになります。(おそらく精神分析医はそういった方法を採用していると思います)インタビューでいえば「何故なのか」を対象と一緒に考えるという態度になり、マーケティングテーマでいえば商品・サービスを使う人の意識の中に入って開発や販売企画を立てるという態度になります。この入り込むにはテクニカルな面もありますが、マニュアル化を拒む要素が多くあるようです。商品企画担当に「消費者の中に入り込んで発想しろ」といっても理解はできても実践は難しいようです。

踏み込むは天才写真家アラーキーの言葉です。対象(被写体)に入り込むだけでは写真(作品)は撮れない、対象に踏み込んで行って切り取ってくることが写真だ(少しニュアンスは違う)と熱く、ニヒルに語っていました。インタビューも時には踏み込むことが大切です。共感的に入り込むだけでは「戦い」の部分がなくなります。対象への失礼は承知で踏み込んでいく覚悟が必要です。マーケティングテーマで言えば消費者ニーズから発想するのではなく「俺について来い、俺が全てを知っている」という態度になると思います。

棲みこむは石井淳蔵先生の言葉です。入り込む、踏み込むが一時的な印象なのに棲みこむは一定期間相手に入り込むということになって少しオカルトの臭いもします。インタビューでいえば正にエスノグラフィーになります。麻薬常習者の心に棲みこむことで回復の処方箋を書くことができるということになりますが、棲みこむのはインタビュアーにも対象にも多くのストレスをもたらします。マーケティングでいうなら「消費者インサイト」を知る最適の方法と思われます。消費者の中に棲み込めば消費者ニーズなどという単線的なものではなくほんとの必要性がわかるはずです。生活者の生活そのものの「暗黙知」が納得できるのです。
これができれば‥。