行動観察

大阪ガスが「行動観察研究所」を立ち上げたそうです。エスノグラフィーというよりインタビューという手法の限界をはっきりさせ、それを越えようとする意図と理解しました。

だいぶ古い話ですし、自分が直接タッチした仕事ではないのですが行動観察で「ユリイカ」の体験を聞いたことがあります。

まだATMもなかった時代の銀行の窓口員(リテーラーという)の行動マニュアルを改訂するに当たって優秀なリテーラーを構成する要素は何かを分析した。ある支店のリテーラーの成績(預金獲得額)を比較した。そして各人の特性を分析した。対応能力(計算スピード、客の話の理解力、正確さ、提案力、セールスのタイミング、話術、‥)年齢、容姿、出身校、親の職業、など相当数の要因で成績を説明しようとしたが、説明力のある(納得できる)モデルができなかった。

そこで、行動観察。店内のVTRを毎日8時間、1週間で56時間(正確な記憶ではない)、何回も見てリテーラーへのインタビューもやった。
やがて、ユリイカが訪れる。
預金獲得のチャンスは1日に面談する顧客の数に相関する(これはあたりまえの仮説)
来店者は最も待ち時間が少ない(列の人数が少ない)窓口に行くはず(これも仮説)
だったら列の人数は平均化するはずなのに、明らかに長短に大きな差がある。(これが観察)
先ほどの要因で分析しても解釈できない。(決して美人、愛想のよい子の列が長いわけではない)

VTRを見ていた誰かが叫んだ。「よそ見だ。よそ見が多いよ、この子は!」
そこで、再度VTRを全部見直した結果。
この子は、客が入店したときに、入り口にしっかりと目線を送っている。
慣れた客以外はどの窓口にしようか迷っている段階でリテーラーと目が合うとそこに吸い込まれる。
そこで、この子の窓口に行列ができ、預金獲得も多くなる。

マニュアルの改訂
お客様と対応しているときはよそ見をしない。 → 店内の雰囲気に気を配りながら対応する。

行動観察の優位性
リテーラーは自分の行動(よそ見)を意識していなかったので、この子にインタビューしても無駄。
行列に並んだ顧客にインタビューしても一層自分の行動がわかっていない。