珊瑚

      座蒲団
土の上には床がある
床の上には畳がある
畳の上にあるのが座蒲団でその上にあるのが楽という
楽の上にはなんにもないのであろうか
どうぞおしきなさいとすすめられて
楽に坐ったさびしさよ
土の世界をはるかにみおろしているように
住み馴れぬ世界がさびしいよ

山之口獏さんの詩です。
マズローの発展5段階説はもちろんご存知なかったと思いますが、大地から立ち上がったエネルギーが座布団までで止まってしまうのが、処世が下手で一生貧乏暮らしだった獏さんらしい。
座布団でさえくすぐったいのに「自己実現、芸術」の世界まで駆け上がるアメリカンドリームそのもののマズローさんの説は獏さんにとってはさびしさの極北か。

池袋のメトロポリタンホテルの先に珊瑚という沖縄飲み屋がありました。そこに獏さんの色紙を発見してうれしくなったことを思い出します。
ばあさん一人と美人そろいのアルバイトだけの席数10くらいの小さな店でした。
ビール(オリオン)を頼むと機嫌がわるく、「泡盛」と言うとうれしそうに注いでくれる基本は無愛想なばあさん。ここで、ゴーヤチャンプル、パクチー(でしたっけ)、ソーキソバとなんといっても泡盛のおいしさを勉強しました。
そのばあさんも亡くなって、店もなくなったということをうわさで知ったのが10年近く前。
そういえば、座布団のある風景も見なくなりました。

沖縄出身の成功した事業家っているのでしょうか。獏さんやばあさんみたいにみんな商売下手な気がします。やはり、沖縄は日本ではない。
獏さんは台湾(中国)と大和の中間と言ってました。