カラダはウソがつけない

第29弾「自己知覚」 ある感情があって、それに見合った表情や姿勢が表現形として出てくる。楽しい時は笑顔が、ガッカリした時は肩を落とした姿勢が、ということ。ところが、逆の回路があって、表情や姿勢からある感情が湧き上がることがある。無理に笑顔を作っても楽しい感情が湧いてくるし、ガッツポーズをとることで気分が高揚してくる。我々の感情や情緒は「ココロではなくカラダ由来」だったりする。楽しいから笑うし、笑うことから楽しい気持ちが湧いてくる。この感情を導き出す力は表情より姿勢(体)の方が強い。能が面(おもて)は無表情にして、舞で表現するのも、この顔(表情)よりカラダの自己知覚の方が強いことを知っていたかのかも知れない。顔はウソをつけるがカラダはウソをつけない。

MRの現場、FGIの現場ではボディランゲージが大切と云われることがあるが、2時間椅子に固定されていては言うほどのボディランゲージは観察できない。ワークショップでアイスブレイクにコトバのやりとりだけよりもカラダを動かさせた方が、アイスブレイクできたか、凍ったままののかの判断は確かにつきやすい。表情は崩れていてもカラダが固まったままでは緊張が解けたとはいえない。我々が提案しているインタビューの途中でカラダの動きを強制的にいれる「アクティブインタビュー」もこの知見に従っていそうだ。

ココロの開放はまず、カラダの開放から。

人格同一性効果とレッテル貼り

第28弾「人格同一性効果」このネーミングもよくわからない。他人に何かを禁止・お願いする時、「ウソはつかないでね」というより「ウソつきにならないでね」と言った方が効果的ということ。行為よりも人格を云々されることがココロに響くということで、これは聞いただけで納得できる内容だ。子どもを叱るときも「ゲームはもう止めなさい」より「ゲームばかりしてるとおバカさんになるよ」の方がいいのかも知れないが、「やめろと言ってんだろ、バカ!」になってしまう。まあ、親子では人格同一性効果は弱いのだろう。

MRの現場では、対象者(消費者)は行動で判断されたい、クライアントは人格同一性を見い出したい傾向がある。インタビューで、いつも新しい(買ったことがない)ものを買う、買いたいとの発言に「新しもの好きなんですね」と返したら「いえ、そんなことありません」と反発されたので、次からは「好奇心が強いんですね」と返すようにしたら反発はなくなった。クライアントとのデブリーフィングでは「典型的なブランドスイッチャーでしたね」と人格化した方が同意を得やすい。最もイノベーター、フォロワー、スイッチャーなどは人格寄りも行動特性に近いが。インタビューでは、人格表現でたずねるか、行動でたずねるかで結果が大きく違うことがある。

別れ話のとき「嫌いにならないで」よりも「他人同士戻りたくない」が効果的なのかはわからない。いや、他人同士と言うのは人格とは関係ないか。ということは別れは止められない。

ある行動を攻撃するよりも人格攻撃が苛烈になるのは当然か。安倍政治を攻撃するより、安倍はヒットラー、独裁者と攻撃するのも人格同一性効果?

曖昧性を避けるか、好むか。

第27弾は「曖昧性効果」ちょっとわかりづらい。と言うより当然の反応の気がする。確率を明言してくれていればそちらを選ぶし、わざわざ確率を再計算するほど我々はアタマがよくないし、時間も無駄である。モンティ・ホール問題も人に説明できるほどの理解に至っていない自分としては確率、期待値は計算より宣言された数値を信頼するよりない。今回の曖昧性効果は、曖昧なものを避ける傾向を脳は持っているということだが、コトバだけからは曖昧な方が有利に働く(選択されやすい)と誤解してしまう。

大阪と東京で同じテーマでインタビューした時に単価の話になって、東京の主婦は全体価格か行っても本数単価の比較で判断していたのに大阪の主婦の中には本数単価を越えてg(グラム)単価まで比較する人がいて驚いた経験がある。日常生活でここまで「計算」するには相当の意識(少しでも安いものを買いたい、高く買うのは愚か)と計算能力(全体価格・本数単価・1本あたりのグラム数)が必要である。グラム単価は曖昧のまま、明確に表示されている全体価格で比較するのが当然であろう。マーケターは当該製品の隅々まで分析するのでグラム単価まで気にするが、消費者はPOPに表示された価格の「印象」でブランド選択している。詐欺とまではいわないこれらのゴマカシはマーケティング戦術として認められるのではないだろうか。

我々の理解は連言の中にある

第26弾は「連言錯誤」これは世間では「リンダ効果」と言われてよく知れれているし、よく例に出されるバイアスである。池谷先生は学者らしく集合の問題として説明されている。ただ、リンダ効果と云われるものは、集合では解決できない要素を持ち合わせていて「脳は特徴のある言葉にひきずられてものごとを判断する傾向があります」とのバイアスの原因の説明にはリンダ効果がフィットする。

マーケティングではこの連言錯誤やリンダ効果を意識的に使うことは少ない。リンダ効果は講演会などの前フリとして使われることが多く「アタマのいい人ほど騙されやすい」などと聴衆をくすぐる道具である。連言錯誤は調査票の質問文の作り方、質問の順序できをつけるべき場面がある。ある製品の特徴を説明してしまう質問文の後にとうの製品の特徴理解・共感を聞くような質問をしてはいけない。質問が連続していればすぐに気づくが、離れているとうっかりすることが多い。

そういえば、我々の理解や評価はこの連言錯誤の連続かもしれない。集合や統計・確率の話しとして日常を理解することは難しい。

ところで、ジンクピリチオンって何だったの?

第25弾は「ジンクピリチオン効果」科学者のマーケットでは「わけのわからない専門用語でケムに巻く」ことを言うらしい。池谷先生が例に上げたのは「一酸化二水素」は規制すべきかという質問に多くの人が規制すべきと答えること。もちろん、これは水のことだからそもそも設問自体に意味がない。なのにそれらしい用語(専門用語くさい)を用いられるともっともらしい反応になる。

ジンクピリチオン効果はマーケティングから出たコトバなので、マーケティングはこの効果を狙っていると言っていい。ウソでもいい(いけない!)からそれらしい専門用語的表現をもってくるとコンセプチュアルな印象を演出できる。ジンクピリチオンはシャンプー出身だが、日用雑貨、化粧品ではこのジンクピリチオン効果ねらいが多いようだ。ヒアルロン酸コエンザイムQ10、の次に来るジンクピリチオンを開発すれば相当の売上が見込めそうだ。

食品は口に入れるものだけにあまりに化学(科学)的用語はかえって敬遠される。乳酸菌の差別化のためにアルファベットの開発記号的ネーミングと開発者の名前から取ったネーミングの争いをみていると、長期的には「飛びすぎた」ジンクピリチオンは、記号性から情緒を派生させる(広告宣伝で)ことをしないと負けるのではないだろうか。あと、ジンクピリチオン効果はマイナス方向でも使われる。「不飽和脂肪酸」は体に良くないと言われると確かにそんな気がしてくる。糖質まで悪者にされる昨今、ジンクピリチオン効果の開発は難しい。

関係ないが、自分にとって最近のジンクピリチオン用語は「エピジェネティクス」である。なんか神秘的であり、科学の匂いもする。少しエロティックな方が良いかも。

心は強い! 心理学的免疫システムはサイコパスではない

第24弾。「持続時間の無視」「インパクトバイアス」は心理学的免疫システムと説明されるようだ。試験に落ちたら、カレ(彼女)にふられたら、自分は相当なショックを受けて容易に立ち直れない。と思い詰めていても、実際に試験に落ちたり、ふられたりした時のショックは予想より小さく、予想より早く立ち直るらしい。生きていくためにはありがたい認知バイアスではある。でも中にはそれがきっかけでマイナス思考が継続して心を病んでしまう人もいる。そういう人はこの免疫力が弱いのだろう。また、試験に落ちたら、ふられたら、オレ(私)は死ぬと周囲を巻き込んで騒いでいた人がその場面で平然とし、すぐに立ち直るのを見ると騙された気がするが、この免疫システムが働いたと思えば、腹立たしさも減る。

MR的こじつける。FGIなどで「この商品がなくなったら困る。買うものがなくなる」と言っていた消費者が、棚からその商品が消えたことにも気づかず、平然と違う(ライバル)商品を買っている場面が想像できる。MRで将来の意識や行動を精確に取ることはできないとはわかっていても購入意向、継続意向を聞きたくなる。リサーチャーの宿命か。

心理学的免疫システムは「自分の死」でも働くのか、死ぬのは怖いし、イヤだし、もし医者から余命宣告を受けたら「自殺」してしまうかもしれないと取り乱していても実際に医者から「もう、有効な治療手段はありません。緩和ケア病棟へ」と宣告されても案外、平気でいられるようである。本人はショックなのだろうが、事前に予想したより淡々としている。あとは死ぬ瞬間にもこの免疫システムは作動するのかな。死んでしまうのだから「継続時間の無視」は考えられないか。

池谷先生の最新本で、死ぬ瞬間の脳の活動が記録されたとの記事があった。手元にないので不正確だが、最終的に数秒間、ガンマ波?が記録されるそうだ。ガンマ波は脳全体が最大限の活動をする時に出るらしい。臨死体験もこれだろうし、古い表現の「走馬灯のように」も案外正しい例えなのかもしれない。

先行刺激(プライマー)を調査し、後続刺激(ターゲット)の処理促進

第23弾。「プライミング効果」は、先行する刺激(プライマー)によって、後続刺激(ターゲット)の処理が促進または抑制される現象。脳科学的説明(作用機序)もわかっているらしい。池谷先生は、記憶力テスト(単語の思い出し)で心理テストと宣言してからと、記憶力テストと宣言して実施する2グループの結果を比較する例をあげている。結果は、記憶力テストと宣言されたグループの高齢者の成績が有意に悪くなる。「歳を取ると記憶力が悪くなる」という認知(プライマリー)によってターゲット(記憶再生)の処理が抑制されたわけである。老人というコトバを聞いたあとでは、老人のように歩くし、ゆっくり歩いたあとは老人というコトバへの反応が高くなる。ということでこの反応(効果)は無意識のうちに起こる。

マーケターは無意識にこのプライミング効果を使っている。「香り高い淹れたてコーヒー」とうたった店や商品は香りがよく、美味しく感じる。塩分のとりすぎは生活習慣病につながるという認知が世の中で成立したとの調査結果あれば、減塩を訴求すれば良いし、そういった認知が否定されれば、減塩以外の点を訴求すればよい。

マーケティング的に先行刺激をコントロールすることができない(コストと時間がかかりすぎる)場合が多いが、現在、どのような先行刺激(いわゆるトレンドでもいい)があるかを調査しておけば、後続刺激(マーケティング施策)を有効に効率的にコントロールできる。