繰り返しと発話・発語でブランドロイヤリティ

『ココロの盲点』シリーズ13弾目。テスティング効果。池谷先生の得意分野の記憶の問題。脳はインプットよりもアウトプットを重視して記憶すべきこと、長期記憶に保存すべきことを判断している。だから、明日の試験対策としては、たくさん憶えようとインプット(教科書を繰り返し読む)よりもアウトプット(小テストを繰り返す)方が有利だそうです。

あるブランドのユーザーのFGIの時、FGIが終わる頃はほぼ全員が、そのブランドのロイヤルユーザーとして確信に満ちた顔つきになります。リクルーティング段階では単なるヘビーユーザーだった対象者もFGI中にそのブランドについて何回も発言(アウトプット)するうちに記憶内容が強化され確信的記憶となったブランド名が脳に刻まれたと解釈できそうです。ここからマーケティングの基本として「繰り返し」と「アウトプット」が重要であるとのことがいえます。繰り返しは当然として、アウトプットを促す施策として発言・発話を促すことが重要です。リビングでTVCMに10回接触してもらうより、Webキャンペーンでブランド名をキワード検索(発話・発語)してもらう方がブランドの記名(認知率)アップにつながると考えられそうです。これはテレビなどの受動的媒体よりもWeb検索などの能動的媒体が有利であることを意味します。重要なのは消費者に情報を流し込むより、絞り出してもらう方が効率的ということです。これら絞り出す場面をハブとしてコントロールできれば「自然な」インフルエンサーマーケティングが可能かもしれません。

「少数の法則」はリサーチャーの宿命

『ココロの盲点』シリーズ第12弾は 「少数の法則」。少数の法則だけでは何なのかさっぱり見当がつきません。本では、ハトにブザーが鳴ったときにレバーを押せば餌が出る訓練を充分に行い、「ブザー → レバーを押す → 餌にありつける」との学習が成立したところで、ブザーもレバーも関係ない時に突然、餌をだすと、ハトは奇妙なダンスするそうです。(実験結果もある)餌が出る因果関係は理解(体に染み込んだ)していたはずなのに何故、今、餌が出たかの因果関係はわからない。そこで、餌が出た瞬間の体の動きを繰り返すのだそうです。脳はどんなことにも法則化したがるクセがあり、数少ない成功体験から定式化された「儀式(ハトのダンス)」を生みます。これがゲンかつぎ、迷信、などが生まれる原因です。これに確証バイアス(第2弾)が加われば「信念」になります。そして、こういった慣例はなかなか消えず、それを消去抵抗が大きいと言うそうです。

少数の法則といえるかどうか自信はありませんが、トレンド調査で、特定のデータの対前年比が大きく動いた時、データの精度をチェックする前にその動きの理由を考え始めてしまうのがリサーチャーではないでしょうか。その動きに対してある仮説があてはまりそうだと一層、データの解釈(因果関係の推定)に突き進みます。同時にデータチェックをやれば問題ないのですが、時間がなかったり(納期)、解釈が面白すぎるとチェックが甘くなってとんでもない失敗につながることがあります。因果関係を考えたがる脳のクセはリサーチャーで著しいのかもしれません。

もとよりサンプルサイズの小さい定性調査では、少数の発言から膨大なストーリーを作ってしまいます。このストーリーづくりが分析者の能力と言っても過言ではありません。「行動がまずあって、あとからその理由を考えるのがヒトの行動パターン」が事実であれば、インタビューの対象者も偉大なストーリーテラーなわけで、それも元に分析するのは物語を物語で表現することになります。そこにはデータの精度という考えは入り込めません。

少数の法則の実体験としてかつて「日曜日の夜の個性的な人々」http://blog.hatena.ne.jp/auraebisu/auraebisu.hatenablog.com/edit?entry=8454420450094595545

という記事をアップしました。これは典型的な少数の法則で、我々の周りはこれが溢れているようです。

状況をどう枠取りするかで評価が正反対のことも

『ココロの盲点』シリーズ第11弾はフレーミング効果。本の事例は、コンサート会場に前売り券を忘れて来た人と、来る途中で入場料と同じ額を落としてしまった(前売り券無し)人で、会場で切符を買う可能性はどちらが高いか。に対して後者であるとしています。確かにそうでしょうが、これは情報フレーミング(第4回)とサンクコスト(第8回)との合わせ技のような気がします。情報フレーミングは情報を出す側が意図的にフレームしますが、フレーミング効果は置かれた状況の認識の問題と考えるべきなのでしょう。

フレーミング効果といえるか微妙ですが、MRの世界で出くわす事例で、ある食品を食べたとき、あまり美味しくない、と感じたとします。その時、いつもそれを食べている人は「アレ、今日は自分の体調が悪いのかな?」と考えて、次の機会でも食べるのに、それをあまり食べたことのない人は「これは不味い(ものなんだ)」として次回からは手を出さないということが言われます。FGIでの味覚評価でこのフレーミング効果がよく観察されます。この効果を無視して分析・コメントするのは危険です。

ハロー効果とインフルエンサーマーケティング

『ココロの盲点』からのネタもらいシリーズ第10弾は「ハロー効果」。ハローとは聖像の頭部上に描かれている輝く環(輪)のことだそうです。仏像でいうと「後光、光背」のことでしょう。宗教的解釈になると「わけもわからず恐れ多い」「思わずひれ伏す」状況です。そこまでいかなくて、脳は全体をくまなく観察して判断するのではなく、目立つ一部分に注目して判断するクセを持っている。だから光輝く部分に注目してしまう(ハロー効果)のだそうです。ここから「人は見た目が90%」のような事になります。

もう既に下火なのかもしれませんが、インフルエンサーマーケティングということが言われます。ネットワークのハブになっている人に商品を推奨してもらい、広くユーザーを獲得するということらしいです。当然インフルエンサーはそのジャンルの有名人であることが多く、ハロー効果を使ってインフルエンスしている部分も大きいと思われます。ここで考えると、今や落ち目のテレビCMでも有名タレントを使って商品の優秀性を訴求(誤認)させているわけですからハロー効果を使っていることになります。インフルエンサーマーケティングって結構古臭い概念かもしれません。

あまりたしかな記憶ではありませんが、だいぶ前にダンカンワッツがYahooに転職してデータ解析したところ、インフルエンサー的動きをするハブはどう分析しても発見できなかった、と言っていました。自然なネットワークに、ある情報だけ、爆発的に行き渡らせることは出来ないのでしょう。もちろんそういった現象は頻繁に起きていますが、人為的コントロールは不可能と考えていいと言えそうです。

もうひとつ、油谷さんがいっていたことですが、モデレーターは光(明るい面)を背景にして座ってはいけない。(窓を背後に背負う、明るい光源を背にする)ハロー効果の影響で対象者がモデレーターの言うことに共感しやすくなる。とのことです。考えてみるとインタビュールームでは鏡を背負ってモデレーター席がセットされるのが普通です。いまのやり方はハロー効果のバイアスがあるのかもしれません。

モデレーターの口紅の色は赤

『ココロの盲点』からのネタもらいシリーズ第9弾。今回は「色彩心理効果」です。いろいろな色の服を女性の写真を見せたところ、赤い服が一番魅力的とされた事例をあげ、その理由として赤は血の色で、赤いと言うことは毛細血管に血液が広がっていて生き生きした印象になるからと説明されています。青い光で犯罪や自殺が減るとの例もあげられていますが青の理由は書かれていません。

FGIで色彩が問題になるのは、パッケージの基調色やロゴの色です。結果分析が非常に難しいテーマです。大昔はありえないと言われた黒基調の飲食品パッケージではスーパードライが有名ですが、スーパードライ以前から黒基調は飲食品でも受け入れられていました。黒(と銀色の組み合わせ)は機能的、メタリック、都会的な印象につながります。そうはいっても飲食品で消費者の好みが集中するのは赤を筆頭に暖色系です。

あと女性モデレーターは口紅を赤にしたほうが男性グループでは、早く和む傾向があります。(きちんとテストしていません)ただ、口紅よりも顔色の影響が大きいかもしれません。二日酔いの青白い顔のモデレーターより、少し赤みの差した血色のよいモデレーターの方が話やすく感じます。特に子供相手のインタビューでは影響が大きいようです。

サンクコストは意思決定の問題

池谷裕二先生の『ココロの盲点』からのネタもらいシリーズ第8弾。今回の盲点はサンクコスト。簡単に言うと選択場面で過去の投資を「取り返すことが不可能」なのにそれを考慮して意思決定すること。人間、生きていればこういった場面はたくさんありあますし、「頭がよく、決断力もある」と言われる経営陣の意思決定にもこのバイアスは大きく作用します。というより、経営は投資額も膨大だから、サンクコストにとらわれやすいのかもしれません。

MRの対象者がサンクコストを考える場面は多くありません。ひとつ記憶があるのは子どもの習い事で、当の子ども本人が3年続けた水泳を止めてサッカーをやりたいと言い出したことに対する母親の発言です。「せっかく3年も続けて来て、大会でも3位以内に入れるようになったのに、もうちょい続けなさい」この母親の説得はサンクコストまみれです。今までの投資額(授業料)の話は背後にかくれていますが、時間と本人の継続的努力のコストに拘泥しています。子ども本人がサンクコストにとらわれていないのでおそらくサッカーに転向するだろうと予測できます。この場面での母親の適切な行動(言動)は何なのかはわかりません。

アンカリングも悪くない

池谷裕二先生の『ココロの盲点』ネタシリーズの第7弾。今回はアンカリング。素早く判断しなくてはならないとき、全体の判断は、冒頭部分の情報に影響されますとして、大きい数値から始まる掛け算の列と小さい数字から始まる掛け算の列の例が挙げられています。このように特定の情報に全体の判断がひきずられるのが「アンカリング」です。これは第六感や直感とも言えそうで、必ずしも悪いことではないと思います。

マーケティングの世界では、メーカー名、評判へのにアンカリングがよく見られます。新製品A、Bがあった時、どちらを選ぶか詳細に検討するよりも有名なメーカーのものか、自分の好きなメーカーで選んだほうが時間の節約になります。逆に考えれば消費者のココロの中にこのアンカリングを起こさせるのがマーケティング、特にコミュニケーション戦略の目的と言えます。インフルエンサーを探すより、インフルエンサーにアンカリングされる心理や施策を研究すべきでしょう。

昔の詩で、「アンカおろして酒を飲む」というのがあります。ハシゴ酒の対局で1件の店にアンカーをおろして酔いつぶれる、という内容で、北の港の漁師たちの飲み方をうたった詩でした。考えてみれば、就職も結婚も「アンカリング」しないとできないことかもしれません。