ハロー効果とインフルエンサーマーケティング

『ココロの盲点』からのネタもらいシリーズ第10弾は「ハロー効果」。ハローとは聖像の頭部上に描かれている輝く環(輪)のことだそうです。仏像でいうと「後光、光背」のことでしょう。宗教的解釈になると「わけもわからず恐れ多い」「思わずひれ伏す」状況です。そこまでいかなくて、脳は全体をくまなく観察して判断するのではなく、目立つ一部分に注目して判断するクセを持っている。だから光輝く部分に注目してしまう(ハロー効果)のだそうです。ここから「人は見た目が90%」のような事になります。

もう既に下火なのかもしれませんが、インフルエンサーマーケティングということが言われます。ネットワークのハブになっている人に商品を推奨してもらい、広くユーザーを獲得するということらしいです。当然インフルエンサーはそのジャンルの有名人であることが多く、ハロー効果を使ってインフルエンスしている部分も大きいと思われます。ここで考えると、今や落ち目のテレビCMでも有名タレントを使って商品の優秀性を訴求(誤認)させているわけですからハロー効果を使っていることになります。インフルエンサーマーケティングって結構古臭い概念かもしれません。

あまりたしかな記憶ではありませんが、だいぶ前にダンカンワッツがYahooに転職してデータ解析したところ、インフルエンサー的動きをするハブはどう分析しても発見できなかった、と言っていました。自然なネットワークに、ある情報だけ、爆発的に行き渡らせることは出来ないのでしょう。もちろんそういった現象は頻繁に起きていますが、人為的コントロールは不可能と考えていいと言えそうです。

もうひとつ、油谷さんがいっていたことですが、モデレーターは光(明るい面)を背景にして座ってはいけない。(窓を背後に背負う、明るい光源を背にする)ハロー効果の影響で対象者がモデレーターの言うことに共感しやすくなる。とのことです。考えてみるとインタビュールームでは鏡を背負ってモデレーター席がセットされるのが普通です。いまのやり方はハロー効果のバイアスがあるのかもしれません。

モデレーターの口紅の色は赤

『ココロの盲点』からのネタもらいシリーズ第9弾。今回は「色彩心理効果」です。いろいろな色の服を女性の写真を見せたところ、赤い服が一番魅力的とされた事例をあげ、その理由として赤は血の色で、赤いと言うことは毛細血管に血液が広がっていて生き生きした印象になるからと説明されています。青い光で犯罪や自殺が減るとの例もあげられていますが青の理由は書かれていません。

FGIで色彩が問題になるのは、パッケージの基調色やロゴの色です。結果分析が非常に難しいテーマです。大昔はありえないと言われた黒基調の飲食品パッケージではスーパードライが有名ですが、スーパードライ以前から黒基調は飲食品でも受け入れられていました。黒(と銀色の組み合わせ)は機能的、メタリック、都会的な印象につながります。そうはいっても飲食品で消費者の好みが集中するのは赤を筆頭に暖色系です。

あと女性モデレーターは口紅を赤にしたほうが男性グループでは、早く和む傾向があります。(きちんとテストしていません)ただ、口紅よりも顔色の影響が大きいかもしれません。二日酔いの青白い顔のモデレーターより、少し赤みの差した血色のよいモデレーターの方が話やすく感じます。特に子供相手のインタビューでは影響が大きいようです。

サンクコストは意思決定の問題

池谷裕二先生の『ココロの盲点』からのネタもらいシリーズ第8弾。今回の盲点はサンクコスト。簡単に言うと選択場面で過去の投資を「取り返すことが不可能」なのにそれを考慮して意思決定すること。人間、生きていればこういった場面はたくさんありあますし、「頭がよく、決断力もある」と言われる経営陣の意思決定にもこのバイアスは大きく作用します。というより、経営は投資額も膨大だから、サンクコストにとらわれやすいのかもしれません。

MRの対象者がサンクコストを考える場面は多くありません。ひとつ記憶があるのは子どもの習い事で、当の子ども本人が3年続けた水泳を止めてサッカーをやりたいと言い出したことに対する母親の発言です。「せっかく3年も続けて来て、大会でも3位以内に入れるようになったのに、もうちょい続けなさい」この母親の説得はサンクコストまみれです。今までの投資額(授業料)の話は背後にかくれていますが、時間と本人の継続的努力のコストに拘泥しています。子ども本人がサンクコストにとらわれていないのでおそらくサッカーに転向するだろうと予測できます。この場面での母親の適切な行動(言動)は何なのかはわかりません。

アンカリングも悪くない

池谷裕二先生の『ココロの盲点』ネタシリーズの第7弾。今回はアンカリング。素早く判断しなくてはならないとき、全体の判断は、冒頭部分の情報に影響されますとして、大きい数値から始まる掛け算の列と小さい数字から始まる掛け算の列の例が挙げられています。このように特定の情報に全体の判断がひきずられるのが「アンカリング」です。これは第六感や直感とも言えそうで、必ずしも悪いことではないと思います。

マーケティングの世界では、メーカー名、評判へのにアンカリングがよく見られます。新製品A、Bがあった時、どちらを選ぶか詳細に検討するよりも有名なメーカーのものか、自分の好きなメーカーで選んだほうが時間の節約になります。逆に考えれば消費者のココロの中にこのアンカリングを起こさせるのがマーケティング、特にコミュニケーション戦略の目的と言えます。インフルエンサーを探すより、インフルエンサーにアンカリングされる心理や施策を研究すべきでしょう。

昔の詩で、「アンカおろして酒を飲む」というのがあります。ハシゴ酒の対局で1件の店にアンカーをおろして酔いつぶれる、という内容で、北の港の漁師たちの飲み方をうたった詩でした。考えてみれば、就職も結婚も「アンカリング」しないとできないことかもしれません。

バンドワゴン効果を使ってこそFGI

池谷裕二先生の『ココロの盲点』ネタシリーズの第6弾。今回はバンドワゴン効果。この認知バイアスは相当シリアスです。基本は(社会的)同調圧力で、そのさきに「集団的両極限化現象」があります。

インタビュー調査、特にフォーカスグループインタビュー(FGI)はこのバンドワゴン効果を積極的に活用します。これを活用しないと個別インタビューを集団で行ったという結果しか得られません。グループインタビューは単なる他人の集団ではなく、あるテーマについて話し合う関係性の深い集団をつくることです。他人同士の集まりから、ある目的を共有した集団になるわけです。そこには当然、場の雰囲気、つまり、同調圧力の方向性ができます。この同調圧力の方向性をコントロールできるモデレーターは優秀といえるでしょう。クライアントから「誰々さんの意見・発言に引っ張られた」などと気づかれず、「誘導しましたね」などと非難もされずに思った方向に同調圧力を作り出すのです。もちろん、100%コントロールはできません。

バンドワゴン効果が強く働いたFGIは、「盛り上がった」「よい意見が聞けた」との評価を受けます。そして結果レポートもFGIに参加した人(クライアント)には評価されます。しかし、バイアスのかかった結果なので、次のFGIでは違う方向に同調圧力を向かわせないと偏った結論になります。この同調圧力バランスをとることで、市場や消費者について深いインサイトが得られます。

さらに、FGIではあるテーマを2時間くらい数人の集団で議論(話し合い)するのですから、同調圧力とあいまって、集団的両極化現象も観察できます。あるコンセプトの評価が最上級のグループとミソクソのグループが現れることがあります。インタビューの初期の段階では曖昧な意見も後半では、「良い」「悪い」のどちらかに極化してくるのです。ハタで見てると結論に向かって議論が進んだように見えますが、集団的両極化現象が現れただけかもしれないのです。

このあたりの認知バイアスを考慮しないと結果的に「調査は使えない」との間違った認識をクライアントに持たれてしまいます。ただ、バンドワゴン効果は必ず発生するし、集団的両極化現象もほぼ確実に出て来るのです。

後知恵バイアスはバイアスか

池谷裕二先生の『ココロの盲点』ネタシリーズの第5弾。今回は後知恵バイアス。ことが起こってから振り返ると「前もって予測できた」「本当なら実行できたのに」と思いがちなのが人間です。例にあがっているのは、遅刻しそうになっていつもと違う道を選んだら、工事中で遅刻してしまった。という状況での感情は「しかたない」ではなく「いつもの道を行けばよかった」になるというものです。

自分の行動に関しての後知恵だけでなく、社会現象、マーケットの現象でも後知恵バイアスは観察されます。(本来的には池谷先生の言う後知恵とはちがうかも)トランプが選ばれてからは自分も「そうなる可能性はあった」から時間がたつと「オレはそうなると選挙前からわかっていた」と変化する自分の意見・思いに気づきました。

消費者調査でもヒット商品については「私はヒットすると思っていた」と発言する人(対象者)が多く、更にはその理由まで述べることがあります。その理由は「聞きかじり」が多いのですが。我々としては、何故、あなたはこのヒット商品を買ったのかを本人の意識や心理にもとづいて聞き出したいのにステレオタイプの後知恵が邪魔して「そんなこと当たり前じゃない」以上の発言が引き出せません。マーケットで起こっていることの解釈は全て後知恵バイアスと言えるかもしれません。

マーケティングでは「自分ごと」になっていないとして一般論に逃げ込んだ消費者をなんとか「自分ごと」として捉えてもらって、後知恵バイアスを避けようとします。その他、アウラが開発した「メタファー法」も後知恵バイアスのステレオタイプから消費者(対象者)を救い出す方法です。

まあ、「確率思考」を身につければこの後知恵バイアスは簡単に解消するのですが、やはり、人は確率思考が苦手なのでしょう。

常套手段の情報フレーミング

池谷裕二先生の『ココロの盲点』ネタの第4弾。今回の「情報フレーミング」はマーケティングの世界では常に活用されている認知バイアスと言える。

池谷先生の事例は、ダイエット進行中の人が肉を買いに来た時、「赤身75%」「脂身25%」の2つの表示ではどちらを選択するか。という問いかけで、当然、「赤身75%」が選択される。全く同じ内容の肉が表現の違い(フレーミングの違い)で選ばれやすくなる。追い打ちをかけるように、我々がよく体験する「もう、今年も半年過ぎてしまう」と焦る5月末と「今年もまだ半年以上残っている」と余裕をかませる5月末の違いも情報フレーミングであると例に挙げている。

この情報フレーミングの使い方は、マーケティング、特にコミュニケーション関連の優劣を決めるポイントである。ターゲットの心理状態や嗜好に合うように情報をフレーミングしてあげることで同じ商品・ブランドのイメージが大きく向上する。マーケターは情報フレーミングという認知バイアスを利用している意識はなく、表現のアヤのように考えている。

MRの報告書で認知者40%、非認知者60%との集計結果が出た時、「すでに40%もの認知率を獲得している」とコメントするか、「まだ、40%しか認知率がない」とコメントするかで報告書の雰囲気が大きく変わる。非認知者の60%の数値も「まだ、開拓余地が大きい」とコメントした方が積極的な報告書になる。(もちろん、状況によりけり)

情報フレーミングと少し違うが、現場で数字を出すか出さないかで悩む場面がある。例えば、ある商品で減塩を訴求しようとしたとき、ただ「減塩」と表記するか「20%減塩」と表記するかで、どちらが効果的かということである。100%か0%であればたいした問題にならない。少し前までノンアルビールが、アルコール分0.2%、現場0.1%などと競っていたが、今は0%で落ち着いている。減塩の場合、100%塩分を抜くと商品として成立しないので減塩率を数値で評価すかどうかが大きな問題になる。インスタント味噌汁など半分(50%)も塩分を抜くと、味はみそ汁ではなくなるらしい。10%抜くだけでも味とのバランスが大変らしく、今のところ数字を出さずに「減塩」訴求している商品が多いようである。